Inagaquilala

インビジブル・ゲスト 悪魔の証明のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.9
「シネ・エスパニョーラ2017」で観賞。連続上映の全5本のうち、これで3本目になるが、今回セレクトされた作品はどれも水準が高い。この作品も最後までサスペンスが持続し、なかなか唸らせる作品であった。

まず、作品には大きな仕掛けがひとつある。これを言ってしまうと、興味は半減するので、ここでは触れずにおくが、多少は擦れた観客である自分としても、そこまでは考えが及ばなかった(途中、1箇所だけこの仕掛けの伏線が登場しているのだが、あまり重要な要素でもないと完全にスルーしていた)。

副題にある「悪魔の証明」というのは、事実が存在していないことを証明することで、転じて困難な証明という意味もあるらしい。冒頭、熟年の女性弁護士グッドマンと新進気鋭の実業家ドリアが登場する。ドリアは内鍵がかけられたホテルの一室で不倫相手の女性ローラといるときに密室殺人に遭遇し、当然、部屋に一緒にいたドリアに殺人の嫌疑がかけられ、裁判が控えていた。

弁護士のグッドマンは実業家ドリアにかけられた嫌疑を晴らすために雇われていた。もう一度、すべてを最初から話して欲しいというグッドマンの要請に、ドリアは3か月前に起きた交通事故から話し始める。ローラと一緒に山道を運転しているときに事故を起こしてひとりの青年を死なせてしまっていたのだ。

敏腕弁護士の問いに答えるかたちでドリアの話は進んでいく。その間、過去の映像はすべてドリアの視点で展開されいく。何の疑問も持たず事故の顛末やその後の密室殺人の映像を観ていたが、ここでサブタイトルにも冠せられた「悪魔の証明」ということが意味を持ってくる。

存在しないことの証明、弁護士はつまりはドリアを無罪に導こうとしている、ドリア寄りの人間であるという前提があるため、ここでは何の疑いもなく、展開される過去映像を信じ込む。このあたりの設定が実にうまい。どんどん騙されていく。

殺人偽装と密室殺人を絡めたクライム・サスペンスではあるが、語る人間によって事実は変換されるということを、あらためて再認識させられる見事な展開であった。難を言えば、最初に提示されたミスリードを、もう少し気づかせるヒントがあれば、よりフェアではあったように思う。

いずれにしても、これもよく練られた脚本で、総じて今回の「シネ・エスパニョーラ2017」はそういうものが多い。緻密なプロット、練られたストーリー、これが最近のスペイン映画の潮流なのかとも考えた1作ではあった。
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