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北の桜守のdm10foreverのレビュー・感想・評価

北の桜守(2018年製作の映画)
3.9
【遅ればせながらの・・・】 

さすがにさ、40歳そこそこなもんで「吉永小百合どストライク世代」ではないわけですよ。
確かに綺麗な方だとは思いますよ。でも、最近の作品見てるとね、明らかに年下の俳優さんと夫婦役とかやらされて、「ちょっとそれはキツくないっすか?」とこっちが突っ込みたくなるような・・・・っていう印象があった。
勿論、吉永小百合さんが悪いんじゃなく、脚本やキャスティングに無理があるんじゃないの?と。
だから、いまいち観ようという気にはなれなくて・・・・。

というのが、先日までのザックリとした「吉永小百合」イメージでした。

「でした」。

ゴメンなさい。本当に謝ります。
吉永小百合さんがこんなに素敵な女優さんだということを、まざまざと見せ付けられました。あぁ本当に自分は何てバカなんだ。

物語は第二次世界大戦終戦直前の樺太から始まります。
本土を離れ遠い地で暮らす人々にとって、桜の木というものが「日本人としてのアイデンティティ」とも言えるシンボルとして登場します。まだまだ若い桜の木で花も1~2輪ほど咲くのがやっと。だけどいつしか満月の夜に満開の桜を見たいものだと皆が目を細めながら遠い日本を思い浮かべます。
戦争中でありながらも比較的穏やかに暮らすことができた樺太でしたが、隣国のソ連が突然「日ソ中立条約」を一方的に破棄し日本に宣戦布告してくるあたりから事体は急転します。
樺太で製材所を営んでいた江連徳次郎(阿部寛)は妻のてつ(吉永小百合)と二人の息子に「先に本土へ戻っていてくれ。網走に知り合いがいるから。そこで待っていてくれ」と一家の表札を託し、そして長男の正太郎には「お前は長男なんだから母さんと弟を守るんだ」と男と男の約束をします。
かくして離れ離れになる家族・・・。父は国民義勇軍へ招集され、母と2人の息子は何十キロも離れた港まで歩いて脱出します。またこれが本当に命からがらという感じですね、何とか辿り着きます。
しかし、本土についてからの生活も想像を絶する過酷なものでした・・・・。
文字通り「極貧」です。まして網走です。冬に暖を取らなければ死にます。そんな中、親子は「食べるものも、着る物も、暖をとる手段さえない」生活を強いられていました。

やがて時は過ぎて網走を離れてから15年ぶりに帰ってくる次男の修二郎(堺雅人)。そこには古びた食堂を営む母てつの年老いた姿があった・・・。
何でも役所の話では「最近様子がおかしい」と。

てつさんの言動なんかを見ていると、昨今の社会問題としても取り上げられることの多くなった「親の認知症と向き合う」がメインなのかな?と思うわけです。
しかし、焦っちゃダメです。これは全て伏線なんです。
医者に連れて行っても「変なところはないですね~」と帰されるシーンが挟まっていましたが、これが後々効いてくる振りなんですね。

「何故母さんがおかしいのか・・・」

考えてみると不自然なことがチョイチョイあるんですね。子供も2人いたよな・・とか。

この作品を単純に「吉永小百合賛歌」と捉えるなかれ。
1本の作品の作り方としてもお手本のような構成は見事だと思います。
伏線の張り方も実に自然で、だけど同時にそれが物語の根幹を成している大切なファクターでもあって、物語の邪魔はしないように脇でじっとしているんだけど、最後の最後で「実は・・・」って出される事実に「・・・!!」となる。

先にレヴューを書いた「去年の冬、きみと別れ」の時も感じた『伏線の張り方と回収』について触れましたけど、この作品を見た後だっただけに、尚更そこの大切さ、難しさを感じましたね。

あと、とても上手いと感じたのが、途中に挟まれる「演劇パート」です。
最初は「何だろう?」と不思議でしたが、これが徐々に重要な意味を持ってきます。
『強烈なトラウマによって閉じ込められた「てつ」の記憶、感情の拠り所』として表現されているんですね。あれをナレーションや回想シーンではなく「劇中劇」のような扱いにして、本人すらどこか客観的に見ているという設定は秀逸だと思いました。

よく流れていたCMで「母さん、それだけは思い出しちゃいけない!!」と堺雅人が叫ぶシーンがありますが、ある意味本当に衝撃でしたね。
あのシーンで、それまで自分の中で点だった伏線が1本の太い線で結ばれました。
まさかこの映画でこんなにゾクッとくるとは思わなんだというくらい。
そしてそこから向かえる静かなラスト・・・。
タイトルの意味すらも感動に変える名シーンです。

満月の夜に満開の桜を・・・・。

思い出しても泣けてきます。いい映画でした。

そして「遅ればせながらのサユリスト宣言」です(笑)。

あの「ジャガイモのシーン」可愛かったんです、ほんと。
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