MasaichiYaguchi

北の桜守のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

北の桜守(2018年製作の映画)
3.5
先日は霙や冷たい雨が降って冬に逆戻りという感じだったが、陽気も春らしくなって、会社から程近い上野公園の桜は満開で花見客でごった返している。
「梅は咲いたか桜はまだかいな」と開花を心待ちしている人は多いと思うが、毎春、当たり前のように開花しているように思える桜は手間暇かけないと綺麗に咲いてくれない。
日本の代表的な桜であるソメイヨシノの寿命は50〜60年で人間より短く、自力で繁殖することも難しい。
吉永小百合さん映画出演120本目のタイトルになっている桜守は、そのような桜が病気になったり、傷付いたら健康になるように治療して見守る人を指す。
この作品のヒロイン・江蓮てつは、ある強い思いでこの桜守を務めている。
本作上映シアターは私を含めて50代以上のシルバー世代で満員になっていたが、その事が表すように登場する江蓮家のドラマを通して、我々の父母が歩んだであろう戦後から今日にまでを浮き彫りにしていく。
この手の作品は、終盤に向けて手堅く感動のドラマを盛り上げていくというのが一般的だが、本作の滝田洋二郎監督はケラリーノ・サンドロヴィッチさん演出の舞台劇を所々に織り交ぜるという実験的な構成をしている。
その実験的な手法が作品に違和感となって仇を成すのではないかと危惧したが、却って作品のアクセントとなり、ヒロインの心象風景として伝わってくる。
本作は、夫を南樺太に残して本土に命からがら引き揚げてきた江蓮親子の戦後を、15年振りに再開した母・てつと息子・修二郎の二人旅を通して辿る形で振り返っていく。
我々の父母や祖父母が必ずしも引揚者ではないにしても、この作品で描かれた親子の艱難辛苦のドラマに心情的に共感する人は多いと思う。
そして、子を思う親、親を思う子という構図は時代が変わろうと万国共通で普遍的だと思う。