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北の桜守のtakのレビュー・感想・評価

北の桜守(2018年製作の映画)
3.3
かつて日本領だった樺太。戦争末期、ソ連の侵攻でその地を追われ、過酷な経験をした母と息子が生きた戦後が描かれる。

ビジネスで成功を収めつつある息子の元に役所から電話が入る。それは一人で暮らす母の様子を伝えるものだった。一緒に暮らし始めたものの、だんだんとエスカレートしていく母の行動に苛立ちを隠せなくなっていく。息子夫婦に迷惑をかけまいと、これまで世話になった人のお礼参りを始めると言う母に、息子は仕事を放り出して寄り添う。二人がたどる過去、そこに秘められた思いと、忘れたいが忘れられない過去の辛い出来事。日本の美しい風景を映しながら、映画は旅する二人を丁寧に描いていく。

夫役を阿部寛が演ずる若い頃から、白髪の老婆となるまでを、吉永小百合が一人で演じきる。長い年月に渡る女一代記ならば、世代の違う女優でダブルキャストにしてしまうところだが、吉永小百合だと不思議と許せてしまう。途中舞台劇でストーリーの進行を説明する演出が挟まれるが、これはスクリーンを通した吉永小百合一座の舞台なのだ。そう思えば年齢を超越した役柄を座長が演ずるのも、違和感を感じずに済むかもしれない。エンドクレジットは出演者による歌で飾られる。そうだ、これはまさに舞台だ。

助演陣では、戦後の主人公を支えた佐藤浩市がいい。夫がシベリアで亡くなった後、結婚を申し込もうとする無言の回想シーンは、特に印象的。また、息子の妻を演ずる篠原涼子も大ベテランばかりのキャストの中で大健闘。吉永小百合の活躍をこれからも観てみたい。田中絹代のように老婆になっても銀幕にその存在を示して欲しい。
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