秋日和

きみの鳥はうたえるの秋日和のレビュー・感想・評価

きみの鳥はうたえる(2018年製作の映画)
4.0
青白い暗闇の中で、冷たい氷をそっと噛む。冷蔵庫の扉はちゃんと閉めず、いつも少しだけ開いているから、今月も電気代がかかってしまう。人から借りたライターをこっそり胸ポケットに入れているのはバレバレだけど、彼が貧乏なことは皆知っているから何も言わない。貧乏だからビリヤードとダーツと卓球、後はクラブくらいしか行くところがないけれど、彼は夜の渡り歩き方を知っている。コンビニで会計をするとき、レジスターに表示される金額がどんどん増えていく光景を、友達とただただ見守るだけで楽しいことを知っている。夜の散歩は目的がない方が楽しいことも知っている。何もかもをも知っている彼は、ただ自分がこれからどうしたいのかだけ分からない。
自分の友達と、自分の好きな女の子が着ている服をじっと見て(じっと見るだけで決して言葉には出さなくて)、二人がどんな関係にあるのか見抜く力は持っているのに、一方で二人がどんな風に距離を詰めていったのかは多分気付いていないのだろう。結果だけを「知っている」だけで中身を突き詰めようとしない彼は、やっぱり軽い人間なのかもしれない。例えばコンビニに入った瞬間、染谷将太がどんな行動を取ったのか、雑誌コーナーに直行した彼は恐らく見ていないのだろう。その小さな見逃しは、放っておくとそのうち大きな後悔になる。ふと立ち止まってから120秒以内にはっきりと自覚した自分の感情に突き動かされた彼の姿は、まるで『マンハッタン』のウディ・アレンのようだった。万引き犯を目にしても、決して動こうとしない彼がとった行動。それは感動的と言っても良いんじゃないかと思う。知らなかった自分の感情を知ってしまった瞬間の衝動。そのストレートさを三宅唱は鮮やかに描いていた。この作品が『寝ても覚めても』と同時期に公開されていることを幸福に思います。