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きみの鳥はうたえるのKKMXのレビュー・感想・評価

きみの鳥はうたえる(2018年製作の映画)
4.5
 ストーリー自体にはあまり引っかかりませんでしたが、雰囲気が自分にフィットし、とても気持ちよく観れました。すごく好きな映画です。観ていて飽きる瞬間がありませんでした。
 映画としての造りは、ダラダラした話で内容の割には尺もダラダラと長い。本来嫌いなタイプなのですが、ぜんぜん気にならなかつたです。不思議なほどハマりました。
 若くて、何者でもなくて、何者にもなるメドも立たない3人が、コンビニで酒買ったり、夜道を歩いたりするシーンはおしなべてグッときました。


 はっきり言って、自分自身の体験と重なるため、ノスタルジックなんですよ。あの、夜明けが近づいた夜空の青さとか、道路の街灯の感じとか。夜が明けるとシラけた街並みになるところとか。
 モラトリアムだが何かに向かってる訳でもなく、そして同じような状況の友だち同士で笑い転げながら夜を彷徨ったことのある人…つまり閉塞した青春を送ったことのある人は、なーんか胸を鷲掴まれるのではないでしょうか。

 また、主演3人の顔がイイんですよね〜。柄本佑は、顔が汚くて超良い。色気があって、でも声が軽い。髪型が最悪に似合っておらず、それもまたいいんですよね。染谷将太はきれいな作りの顔ですが、なんかオドオドして奇妙な雰囲気。
 石橋静河は、綾瀬はるかみたいに美人に見えるときもあれば、ブサに見えるときもあり、色気もあるんだかないんだかわからない。でも声はセクシー。『夜空はいつでも最高密度の青色だ』でも味のある演技を見せてましたが、本作もいい感じでした。しかも似たような役どころだし。下流モラトリアム女子を演じさせれば、もはや右に出るものはいないのでは、と思わせるほどです。石橋静河、顔が好きとかではないんですが、この2作ですっかりファンになりました。


 柄本佑演じる主人公は名前がなく、それが主人公を象徴してます。まだこの世に形を持って存在出来ていない。彼は自分の気持ちに触れることを避けて生きています。彼は苦悩できない。情動を感じる痛み、苦悩する痛みを極端に恐れている、臆病でナイーブな男なんだなぁと感じました。
 そんな彼ですが、佐和子と関わることで小さな変化が生じます。逃げ続けた男がついに勇気を振り絞る瞬間が描かれており、実に胸が熱くなりました。また、映像や演出が優れていて、見事な盛り上がりを見せるのです。まさに映画の醍醐味、という感じで、大変素晴らしかった。あと、やはり恋は良いですね。

 演出も印象に残りました。語り手ではない人をアップにするとか、撮り方がユニークで印象に残りました。画面の陰影も雰囲気ありました。
 カラオケで歌われた、スカアレンジのオリビアを聴きながらもなかなかイカしてました。佐和子がちょっと気だるいフェイクを入れていて、それがカッコ良かった。まー、カバーしてるハナレグミがああやって歌っているのでしょうが。本当は魂こがしてを歌ってほしかったんですけどね〜

 イチャモンをつけるとすれば、主人公たちは閉塞してる割にはカネ持ってるな、ってとこでしょうか。けっこう佐和子が支払ってる場面が多かった気がしますが、店長からカネを引っ張ってきてたのですかねぇ。
 あと、佐藤泰志感はあまりなかったかも。『そこのみにて〜』『オーバー・フェンス』に比べて、異質な印象です。ググったところ、原作からかなり改変されているようでした。映画ではビートルズ皆無なので、果たしてタイトルはあのままでいいのか、とも思いました。
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