マクガフィン

きみの鳥はうたえるのマクガフィンのレビュー・感想・評価

きみの鳥はうたえる(2018年製作の映画)
3.2
主人公の〈僕〉柄本佑の仕事には不真面目だが、遊びにはすこぶる真面目なことに代表される独善的な行動。バイタリティの振り分けを正しいとは言えないが、意外な振れ幅の大きさに驚く。原作未読。

それに加えて、柄本佑のいつも以上なカッコ良さと、監督の力の籠った淡く耽美な映像が余すところなく続く。〈函館三部作〉で描かれた、主人公を通した生きる葛藤、無力故の無常さや、それ故の抗いなどの〈負〉の部分がたいして伝わってこない。
あんな髪型がカッコ良く思えるのは、俳優でも柄本佑とオダギリジョーぐらいで、素人には殆どいないと思うことも共感できないような。映像美のインパクト有りきで、それを支える屋台骨が乏しい。

更に〈函館三部作〉は、汚い町やダメ人間も、包み込むような何かの視点が凄く魅力的に描かれていたのだが、異様な店長の寛容さと染谷のやさしい視線もどうか。ラストの自発的な行動に転じることと、それに対する多義的な表情による儚げな余韻が作品を魅力的にしたのだが。

佐藤泰志作品が好きで、今年1番見たい邦画作品だったので、本当に残念。ATGのような〈負性〉を求めて見に行ったら、出来の良い恋愛映画を見た感じで、マイルドに改変したことに呆然とする。傑作「オーバー・フェンス」「そこのみにて光輝く」に思いを馳せる。