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きみの鳥はうたえるのピカルのレビュー・感想・評価

きみの鳥はうたえる(2018年製作の映画)
4.8
【たった三人の話】

1,2,3,4,5,6,7.....

終わらないでほしい。
そう願う必要もないほどに。

『きみの鳥はうたえる』観ました。

2018年の邦画最高傑作なんじゃないかとずっとずっと楽しみにしていた期待作。
それは、『きみの鳥はうたえる』に映画『夜空はいつでも最高密度の青色だ』を感じていたから。
理由はなんとなくだったけれど、本編を見終えた今ならわかる。
共通点は“日常に潜む一瞬をこれでもかと鮮明に描く”ことだったんだ、と。

この一瞬のきらめきを支えていたのは、間違いなく三人のすばらしいキャストだった。

語り手である「僕」を演じた柄本佑さん。
うん、めちゃくちゃどうしようもないヤツだった(笑)
このどうしようもない主人公を熱を込めて演じてくださったおかげで、自然体すぎた。薄っぺらいのに、重層的に響いてくる。「僕」の素直で正直な面がスッと入ってきたのは、柄本佑さんの役への真摯な向き合い方があってこそだと思う。
しかも.....
すっっっごいお酒の臭いがするんですけど!!!!!(笑)
主人公の「僕」はいつも夜通しお酒を飲んでいるんだけど、翌日の酒臭いにおいがそのままスクリーンから伝わってくる.....いや、飛び出してくる!?
こんな演技があるのか。
とにかく圧倒された。

次に、佐知子を演じた石橋静河さん。
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』での演技に魅了されて、一気にハマってしまった女優さん。
『きみの鳥はうたえる』では、本編始まってすぐのシーンで石橋静河さんの笑顔を観ることができる。
言葉にならなかった。
まぶしくて、まぶしくて、直視したいのに、スクリーンから思わず目を逸らしてしまいそうになる。目を細めながらも、なんとかこの笑顔を目に焼き付けたいと必死になる。
本当にすごかったんだ。
本編のきらめくシーンをすべてかき集めても、この笑顔には敵わないんじゃないか?

そして、静雄を演じた染谷将太さん。
映画が始まって数秒後に映し出されるアップの表情。
「そめちゃん.....!!!!!」
久しぶりに大きなスクリーンで大好きな染谷くんを観ることができて、感激のあまり、もうすでに泣きそうになっていた。
そりゃそうだ。私は染谷くんの演技に魅せられて映画にハマったようなものなんだから。
『さよなら歌舞伎町』の時の役柄がとても似合っていて好きなんだけど、今回の静雄もすごく良くて、しっくりきた。
相変わらず、すごい目をしていた。
映画を観ながら気付いた。
この人、目を、半分殺せる.....!!
.....殺せる、は表現としてよくないかな?(汗)
片目に光を、もう片方の目に闇を注ぐことができるんだ。
顔の片側だけ影に隠れるシーンがあって、息を呑んだ。左目で幸せな今への安堵を、右目でいつか終わることへの焦りと寂しさを映し出したその表情に、私は窒息しそうになった。
こんな目ができる人を他に知らない。

そんな、強烈な三人が生み出すストーリーは、ありがちな三角関係ではない。
絆を確認し合う友情物語でもない。
ただ、“三人”だ。
三人の、何気ない日常だ。

穏やかだけど、演出が実に挑戦的。見せたいものを役者の表情、いや、その目で見せてくれる。たとえば、携帯電話でのメッセージのやり取りを、トーク画面ではなく、本人達の反応で見させてくれる。そういうシーンがたくさんあるせいか、とにかくそれぞれの顔がアップで映し出されることが多かった。どこまでも果敢だった。心の深い深い場所で、静かに熱狂しているのが心地よかった。

忘れられないシーンがある。

夜中、三人はラップが響き渡るクラブにいる。
酔いが回って心も体も揺らめく。
ブルーライトに照らされる。
青春の瑞々しい群青ではない。
希望と確かな寂しさに満ちた、どこか青黒く、どこか青白い光。
三人の笑顔を支える幸せの余韻。
幸せだから敏感になってしまう終わりの予感。
夏なのに冷たく、夏だから誤魔化せた。

私は不覚にも泣いてしまった。

終わらないでほしい。
そう願う必要もないほどに。
美しかったんだ。

今、三人が、私の中で生きている。
ずっと、この胸の中にいる。

光だけで、そう実感できた。

8,9,10,11,12,13,14.....

このまま終わるのだと思った。
この穏やかな時間のまま終わるのだと思った。
新しいハッピーエンドになるはずだった.....

走る。走る。走り出す。

頭の中で無意識に鳴り響いていた心地よいリズムが、崩れ落ちた。
さっきまで肌に触れていた軽やかなメロディが、静かに引き去っていった。

静かだけど、うるさかった。
うるさくて、うるさくて、私はなにかを握りつぶしたいのに、ただ目の前の輝きに心を奪われたままだ。

幸せが引き裂かれ、輝きが溢れ出していた。

「終わり」なんてない。
「続き」を望まれることもない。
だけど
「始まり」はとっくに捨ててしまったよ。

これが、僕なんだ。
これが、僕たちなんだ。

佐知子の無言の表情が放たれるラスト。
輝きが、そう強く叫んでいるように見えた。

今も、目を閉じればこの音のない叫びが聴こえてくる。
幸せだ。