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Forest of Bliss(原題)のInSituのレビュー・感想・評価

Forest of Bliss(原題)(1986年製作の映画)
5.0
インドの都市ヴァーラーナシーの人々、その土地全体に密着したドキュメンタリーフィルム。所謂、Ethnographic Filmというジャンルに当たる。何処かの土地そのものに密着し、その土地の住人たちの日常を淡々と綴る姿勢は、ワン・ビン監督のスタンスと重なる部分があります。が、ワン・ビンは長回しを多用し、上映時間を長くすることで、観客にスクリーンとの距離を縮めさせるという手法を取っていますが、この映画はカットを多様し、上映時間も90分足らずという有様です。

この映画におけるビックリポイント。現地の人々が何を言っているのか、字幕も何も添付されない。彼らが何を言っているのか、何を唱え、どういうコミニケーションを相手と取っているのか、彼らは何故笑い、何故泣いているのか。それを観客が理解することを、監督は敢えて拒絶させました。

ビックリポイントその2。彼らはカメラの存在を全く気にしていません。認識していません。カメラ目線すら"全く"ありません。現代人において、この事実には驚愕を通り越して、ある種の疑念すら覚えてしまう程です。

この映画は、単なるシネフィル用に作られたドキュメンタリー映画でしょうか。ハッキリと、違うと言えます。
一重に、Forest of Blissというタイトル(この映画に、一般的に"森"に該当されるような土地は全く出てきません)と、オープニングでの、正に弱肉強食と呼ぶに相応しい、生物たちの獲物を捕らえるその瞬間と、今にも息の根を止めそうになりながらも、必死に叫び続ける獲物の様。その後挿入される"Everything in this world is eater or eaten. The seed is food and the fire is eater."という、古代インドの哲学書から抜粋された一節。

そして全編を通して、死人を埋葬する際の、彼らなりの儀式、人々が働く姿、とりわけ、青年が船を漕ぐバックショットの、見惚れてしまうような美しさが、この作品の全てを物語っているように感じます。私はこの映画を通じて、初めて、真の意味でニヒリズムを克服したように感じます。間違いなく、人生を変えた一本になりました。
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