ケーティー

マザー!のケーティーのレビュー・感想・評価

マザー!(2017年製作の映画)
4.5
男女の根本的な違いをあぶり出し、劇的な展開を創り出した怪作。


これはすごい。衝撃だった。

話をまとめれば、せっかく若妻が綺麗にしようとしている家に、外から色んな人が来て、それを台無しにしようとするのを、若妻が必死に守ろうとするというシンプルなストーリーである。しかし、そこには衝撃の展開が待っている。

オープニング、いきなり燃え盛る炎をバックにした主人公の女性の顔のアップが映し出される。しかし、それは一瞬で、すぐ田舎ののどかで平凡な邸宅の日常の風景に移る。この始まりから、いつ主人公が狂気の女と化すのだろう、どんなラストが待っているんだろうと興味をそそられるて見始めるが、序盤はしばらく日常の描写が続く。

まずここで、ダーレン・アロノフスキー監督の技が光る。何気ない日常なのに、何かあるんじゃないか。そんな予感を観客に抱かせる演出が、絶妙なタイミング感で描かれるのだ。そんな中、それも続くと、ずっと結局何もないのかよと思ってしまう。しかし、本作はその後、思いもよらぬ展開、期待以上、いや想像をはるかに越える衝撃が中盤から終盤にかけて起こっていく。

本作の主な内容は、大きく3つの事件に分れるが、始めの事件である、自分の家に泊めた中高年夫婦のもとに、思わぬ訪問者が現れるエピソードからすごい。始めはそのあまりに破天荒な展開に、思わずこれは半分コメディだと笑ってしまった。

しかし、次第にコメディだと笑ってはいられないほど、ぞっとする恐怖が終盤では描かれていく。ここまで衝撃を上回る衝撃をつくることができるのか。ただただ驚き、本作を創った製作陣の力に、感嘆してしまった。正直なところ、特に終盤は賛否が分かれるだろう描写もある。しかし、そのアイディア自体はとにかくすごい。

映画の終盤から、これは男と女の相容れない性格を描きたかったのではないかと感じた。特に、それを決定的に感じたのはラストである。
人によって解釈は変わるかもしれないが、私はラストの結末に、結局は男と女には分かり合えない違いがあり、それは永久に解消されることはない。というメッセージを感じた。個人的には、男と女は分かり合えないという結論には同意しかねるが、その違い自体はよくわかる。やたらと人を招きたがり、家自体も自分の承認欲求を満たす道具にする男の性(さが)。そして、女性ならではの母性本能で、家を守るためには、どこか他人に踏み込まれたくない部分も残したい女性の本能。この対立は、実際に日常でも目にするし、家に招きたがる人は男でも女でもいるが、その本質はどこか違う気がする。ここには、例えば、承認欲求でも、男と女ではあり方が違う、そんなニュアンスもある。このような男女の違いを鋭く捉え、その差を劇的にあぶり出したところに本作の見事さがある。

以上はあくまでも、私の感想で、本作の寓話的な構造は多様な解釈もできそうな面白さもある。
また、オープニングでは女が家を守ろうとするあまり狂気と化す話かと想像できるが、必ずしもそういう話ではないところに展開していくのがすごいのである。

※以下、ネタバレになりうる記述を含みます。





そのほか本作で面白いなと思ったのは、子どもが生まれるきっかけ。夫婦の対立がピークに達したとき、セックスレスの夫婦が突然衝動的な行為に及び、子どもが出来る。あくまでも個人的な考えだが、この極度のストレスがセックスへの衝動を生むというのはどこか真実味がある気がする。それは、この映画が描くように、セックスをし、そして男女が仲直りするところまで含めて現実に通じているように感じる。

また終盤では、主人公の夫である作家に大衆がご利益を得ようと群がる姿が、どこか「ジーザス・クライスト=スーパースター」を彷彿とさせた。

そもそも、話のテイスト自体は、「世にも奇妙な物語」のシリーズにも通じ、それをもっとシリアスで過激にした感じなので、そうしたテイストの作品が好きな人にも本作はウケるだろう。