柏エシディシ

ハウス・ジャック・ビルトの柏エシディシのレビュー・感想・評価

ハウス・ジャック・ビルト(2018年製作の映画)
3.0
誤解を恐れずに言ってしまえば、限りなくエンターテイメント寄りに振り切ったラースフォントリアー作品。
って、充分に胸くそ悪くなる映画なんだけれど、彼のフォルモグラフィーからすれば、サービス精神は1番あると思う。
(まぁ、この人はこの人なりにサービス精神に溢れた映画作家である事は間違いなく。だからこそ、批判されながらも未だに映画を撮り続けられている訳ですが)

この人が映画を撮っていなければ、大概、凶悪犯罪者か、それこそジャックの様な連続殺人鬼になるしかなかったのではないだろうか、と多くの映画ファンは思っているだろうし、まさにハウスジャックビルトはムービーラースダイレクテッドの翻訳。
これに対する監督の言い訳と言うか開き直りを、映画ファンとして、それより以前にヒトとして楽しめるか?許せるか?じゃないですかね、本作の評価は。

道徳や常識は芸術の敵、という側面はある程度認めざるを得ないところだし、自分もそれなりに不謹慎な映画やアートを楽しんでしまうタチだから、偉そうに批判する気もないけれど、ここまでダイレクトに女性蔑視、ナチス礼賛を表明されると……。

ラースフォントリアー作品は初期の作品の方が圧倒的に好きなんだけれど。
それは彼の持っているサディズム的素養が、出演者(主に女性)のタレントやテーマと上手く拮抗し、科学反応を起こしてアートと昇華されていたからと思うのだけれど、作品を追うごとにその露悪性を剥き出しにしていく彼の作品に共感を寄せる事は個人的には難しくなってきてはいる。

それに対するご丁寧に自作のフッテージを引用しつつ回答を示しつつ、少し冗談めいた仕掛けを施しながら、こんな作品を撮ってしまうところも、また、ラースフォントリアーの底知れない才能というか、本当の恐ろしさというか。

この場合、例えばイーライ・ロスの作品を「楽しむ」様に、本作を「楽しむ」ことが出来る自分もいることに恐ろしさを感じつつも、それでも、そのことにも嫌悪感を覚える自分の感覚も忘れないでいたい。
柏エシディシ

柏エシディシ