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エブリシングのNMのレビュー・感想・評価

エブリシング(2017年製作の映画)
3.8
家で過ごすヒロインの様子は、コロナ禍にあるなかでとても印象的だった。
彼女ほどではないにしても人との接触を限定されている私たちにとって、勉強し趣味を持ったマディは一部お手本になりうる。

賛否両論あるらしいが私は好みだった。
スタイリッシュだが、ファンタジックでもある絶妙な作風。まるでApple社かなにかのCMがそのまま映画になったよう。
色彩も鮮やかで、家の様子も自然の様子も美しい。
ただの恋愛物語ではなく、ラストは驚くべき秘密が明らかになる。だが何より恋に落ちていく描写が素晴らしい。

最新の設備が整った豪華な家。
マデリンことマディは、免疫疾患のため一切この家の外に出ることができない。
父と兄は幼い頃事故で亡くなり、母や専属看護師ぐらいしか彼女の存在を知らないが、彼女らの愛に包まれ、まっすぐに成長した。
また、行動が様々に制限されることと折り合いを付けて生きてきたためかとても達観した大人びた言動を取る。

ところが突然の初恋に落ちると、外来の素直さを発揮し、積極的になっていく。

とんとん拍子に進みあまりにもロマンチック。きっと観ている人はみんなこの愛らしく純粋なマデリンが心配になるだろう。後で傷つくのでは、辛い目に遭うのでは、と。
だが今度だけは自制しないと心が決まっているらしい。命がけの恋。

二人とも初々しく、その顔には幼さが残る。
恋の始まり。先のことは考えられない。他のことは何も。ただ彼に会いたい、近づきたい、触れたい。

彼のほうが躊躇する。もちろん会いたいし触れたいが、彼女に何かあったらと思うと戸惑う。

最大の障壁は母。
当然娘の命が第一なので、親友でもあった看護師をクビにし、ネットも制限。
しかし母は文字通り命綱であり、母もずっと自制し娘に尽くしてきたらしい。突然初恋に身を投げるのを簡単に賛成するはずもない。

言いつけを守り電話に出ないマデリンに彼が見せた海が感動的。
人間を生かしめるものは、ただ安全な環境のみではない。
束の間でもいい、自分が生きているという実感が欲しい。

彼の方も家に事情があるらしい。父親と殴り合いの喧嘩をしていたし、母親はなかなか登場しない。
とにかく母を守らなくてはならないらしいが、若い彼には当然ずっと負担だったことだろう。

最初で最後かもしれないことを胸に秘めて冒険に出かける様子はあまりに美しく切なく、悲しい。
初めて知る海、自然。思い切り体を動かし、大声で叫び、恋人と抱き合う。私は生きているという実感。もう戻れない。

夕陽を見つめて並んで座る背中を見ると、この二人がどれほど重いプレッシャーと戦ってきたか想像させられた。

「愛は人を惑わす」「分かる気がする」
運命が二人を出会わせ、また運命が二人を分かつ。
彼がマデリンを養うのは到底不可能だし、彼は家族を捨てられない。

また一人になったマデリンはこの先どうやって生きていくのか、と思ったら設定を根本からくつがえすとんでもない事態が発覚。

涙を流す母は、悲しみと恐れで小さく老いて見えた。
それを許そうとするマデリンの器の大きさ。

無謀に思えた恋が結果として彼女の人生を救うことになった。

オリー役ニック・ロビンソンももちろん、とにかくマディ役アマンドラ・ステンバーグの魅力に圧倒された。美しく、賢く、幼く、強く、儚い。

メモ
バントケーキ……Bundt cake。リング状のドライケーキ。
サントラ:『Everything, Everything (Original Motion Picture Soundtrack)』
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