映画漬廃人伊波興一

最低。の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

最低。(2017年製作の映画)
4.3
何かが欠けていることで補い合う女たちの静かな連帯 
瀬々敬久「最低。」

主人公3人が関わるAV女優というもの。
「あんなこと」「へんなこと」などというセリフから(職業蔑視)などという世論の過剰反応を心配してましたが本物の映画はその程度の事では微動だにいたしませぬ。
AV女優であろうが普通の女優であろうが歌手であろうがタレントであろうが自堕落でヒステリックな感性の持ち主がその気になれば「あんなこと」「へんなこと」にしてしまうご時世です。

まずは山田愛奈がこぐ自転車の後ろで母・高岡早紀が身をもたげる場面がどれだけ素晴らしいか。
私は自転車が画面を滑走するシーンを巧く切り取れただけで(これが映画だ)と頷いてしまう単純な男ですが、本作のこのシーンは北野武「キッズリターン」の高校生ふたりの自転車相乗りシーンに匹敵します。

そして本来は一番敬遠されるべきアップショット。
劇中の佐々木心音のセリフ「あってはならない事などない」とでも言わんばかりに多用していく瀬々監督の蛮勇ぶり。
リュック・ベッソン「レオン」のアップ多用は非常に見苦しいですが、「最低。」のアップ多用が許せる所以です。

いつの時代も女性は就職、結婚、出産、育児、離婚、再婚など直面すれば男性よりも大きな決断力が余儀なくされます。
だからこそ彼女たちは男どもよりは互いの欠陥性を補え合える力が強い。
本作に登場する主要女性3人に加え
(大人になったら分かると言われたけれど結局大人になっても分からない)根岸季衣や
(親になれば変わると思っていたが、親になっても未熟な依存症)
の高岡早紀まで含め、血が繋がろうと、そうでなかろうと、友情や絆が長くて、固くて、太い存在として最終的には全員を肯定的に描いていくのだからやはり瀬々敬久というお方、ただものではございません。