タケオ

この世に私の居場所なんてないのタケオのレビュー・感想・評価

3.7
「誰もが傷つけ合って、奪い合って、自分さえよければいいと思ってる。あまりにも醜悪よ、誰もがみんなクソッタレなのよ‼︎」真面目で気弱な看護助手のルース(メラニー・リンスキー)は、友人の前で思わずそう叫ぶ。
 アイドリングで騒音を立てる車、スーパーで商品を床に落としても気にもしない客、ペットの糞を始末しない飼い主、祖母の形見を盗む空き巣、何もしてくれない警察官。ルースが孤独と貧困のドン底で「怒り」を溜め込み、そして次第に煮詰まっていく姿は、『タクシードライバー』(76年)のトラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)や『フォーリング・ダウン』(93年)のD=フェンス(マイケル・ダグラス)を彷彿とさせる。しかし、トラヴィスやD=フェンスが明白に「狂人」として描かれていたのとは対照的に、ルースはどこまでも「混乱した存在」として描かれているため、本作『この世に私の居場所なんてない』(17年)が前述した作品群にあったようなカタルシスを鑑賞者にもたらすことはない。ルースが'自らの意思で'一線を踏み越えることはなく、それゆえに物語の結末も比較的爽やかなものとなっているが、『タクシードライバー』や『フォーリング・ダウン』と比べてしまうとやや食い足りなさを感じるのもまた確かである。
 しかし、カタルシスを欠いた物語だからこそ本作には、『タクシードライバー』や『フォーリング・ダウン』とは異なる独特の味わいがある。より身近で、そしてより実在感のある「怒り」と「煮詰まり」が本作には満ちている。「ふざけやがって、全員死んじまえ‼︎」という孤独な魂のハラワタからの叫びは、やはり時代や性別を問わない普遍的なものなのだろう。
タケオ

タケオ