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赤線地帯のefnのレビュー・感想・評価

赤線地帯(1956年製作の映画)
3.8
 黛の採用といい額縁構図の放棄といい溝口作品の中でも特に不穏。店の奥中で密談する女将と玄関で客を取る女の間、着飾った母とそれを看板を挟んで目撃する息子、それぞれが玄関、看板を挟んで交流を拒む。工場の空き地で息子が母が拒絶する場面でもオート三輪が二人の間を引き裂くが、これも関係性を断ち切るために走っている。
 金を貢いでいた男が逆恨みの末に女を殺すシークエンスにしても、事件は廊下で起こる。犯人は廊下を走り抜けて逃走するのだが、この逃走自体が溝口にしては異様だ。(撮ったのが5年早ければカメラは廊下の窓側、90度違う場所に置かれたはず)
 どのショットにも西鶴一代女、祇園の姉妹にあった額縁構図の窮屈さ、睨み合う二人を枠で共食いさせるような悪意はない。代わりに断絶だけが、人は不信を乗り越えて生きる他ないと言いたげな構図が溢れている。ラストで壁越しに客を取る新人、それさせてしまう社会そのものを象徴している黛の音楽の何と残酷なことか。
 晩年の溝口の足掻きというか境地を見た作品だった。
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