幕のリア

赤線地帯の幕のリアのレビュー・感想・評価

赤線地帯(1956年製作の映画)
5.0
赤線吉原の「サロン 夢の里」で生活を凌ぐ女達の群像劇。
溝口健二の遺作。

3人の名女優の華麗な共演。

京マチ子演ずるミッキーの格好良さ。
当時なら充分大柄なバディはトランジスタグラマーとは言わないね。
大阪出身だけに堂にいった神戸っ娘ブリ。
「うち、ヴィーナスや」
「八頭身や」
粋で溌剌とした芝居は、かたせ梨乃なんかがこの作品の影響を後に受けているように思える。
雨月物語とのギャップに目を剥き演技の幅に感服。


祇園囃子では憂いたっぷりの木暮実千代が地味ィなオバちゃん。
崩れた着物の着こなしや冴えない私服、パーマネントとメガネが生活臭たっぷりだが妙にチャーミング。

そして若尾文子様演ずるやすみさん。
本作では無表情な仕事人。
メイクもいつもと異なる涼しい艶。
激情をひた隠す淡々とした所作が堪らない。

江戸っ子も関西人も完璧にこなす名脇役進藤英太郎のしわがれた声が癖になってきた。

てっきりアングラな作品かと思ってたのが、軽妙な下町人情話仕立て。

話が進むにつれ、それぞれの身の上とドラマが明らかになる。
会社の疑獄事件で小菅刑務所に入った父親の保釈金20万のために吉原に流れて今や金貸稼業に精を出す若尾文子のエピソードなどハッとさせられる。
社会の底で媚を売り借金にがんじがらめながらも自由に生きる女達の生活。
売春防止法の施行という世相に翻弄される人間模様。

色鮮やかと見紛うかのようなネオン輝く夜の吉原のセット。
そこに響くテルミン混じりの珍妙な音楽も彩りを加えている。

人生の節目の瞬間を捉えたエンディングに鳥肌。

〜〜

2020年東京オリンピックを目前に控え、思い付いたように、街を浄化させる動きが出ない事を祈る。
幕のリア

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