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アトミック・ブロンドのTEPPEIのレビュー・感想・評価

アトミック・ブロンド(2017年製作の映画)
3.8
Filmarksの試写会にて鑑賞。シャーリーズ・セロンが主演だけでなくプロデュースもしている本作は元々はグラフィック・ノベルを下敷きにしているが、何かと監督がデヴィッド・リーチなのでつい最近スマッシュヒットとなった「ジョン・ウィック」と比較されている。しかしあっちはガチの殺し屋で、こちらシャーリーズ・セロンが演じるMI6のローレン・ブロートンは本格的な優秀スパイ。今回はベルリンの壁崩壊前の1989年を舞台に、何者かに奪われた諜報員のリストを巡ってCIA、MI6、KGBなど各国のスパイや殺し屋が探り合う本格スパイ映画となっている。ストーリー自体は至ってシンプルだが、目が離せない展開になっており、サスペンス作品としても十分見応えがある。てっきりセロンがとにかく暴れる邪道スパイ映画と思いきや、超真面目なスパイ映画である。大胆なアクション、見事なバイオレンス描写は痛々しくて最後まで楽しむことが出来る。さすが敏腕スパイなだけあり、不測の事態の時以外では身の回り品を有効に使うぐらい臨機応変。撮影はほぼブダペストで行われており、小道具や車、当時の政治的メッセージが書かれた壁と細部までセットもこだわっている。
80年代ファッションやデヴィッド・ボウイらの楽曲など、懐かしいのにアクション描写は新しい要素が入って心地よい。個人的にはバイオレンス描写は期待以上で特に7分半の長回しアクションの泥臭さというか、血生臭さというか、痛いというか、とにかく音が痛い。ネオンを対比にしたシーンもわりと最近では「スカイフォール」や「オンリーゴッド」とは違うスタイリッシュさを誇っており、ややスローなストーリーを視覚的にも追わせている。デヴィッド・リーチ監督はオタクというよりは、視覚的表現にこだわりが強い印象を持ったが、アクションシーンの撮影は散らかし過ぎて時折疲れてしまう。ハードコアとスタイリッシュを行き来して、最終的には少し強引になったたためか決め手には欠けてしまった。
キャスト陣営は豪華であり、ベテランのトビー・ジョーンズやジョン・グッドマンの安定ぶり、さらにMI6ベルリン支部のエージェントを演じたジェームズ・マカヴォイは演技はいいが少しキャラクターの弱さが勿体無い印象。ソフィア・ブテラとセロンのコンビは何だか面白かった。
総評として「アトミック・ブロンド」は行き詰まっていた古典的スパイ映画を新たなアプローチで展開しており、退屈なスリラー部分を補っていたが、過度なアプローチとセロンのアイドル的要素が時折世界観を困惑させてしまっている。それでも十分楽しめるスパイ映画に仕上がっている。
「ジョン・ウィック」をはじめ殺し屋やスパイ作品をユニバース化、もしくはクロスオーバーさせる計画もあるそうだがそこまで確立させるほどローレン・ブロートンという女スパイは心には残らない。女スパイローレンというより、格好いいシャーリーズ・セロンといったイメージがあるからだ。しかし低予算でここまでのクオリティなのは驚きだが。サスペンス映画として目を離せない、アクション映画として目を離さない、それぞれの要素を上手くクリアしているのでデヴィッド・リーチ監督の「デッドプール2」を期待したい。
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