140字プロレス鶴見辰吾ジラ

アトミック・ブロンドの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

アトミック・ブロンド(2017年製作の映画)
3.8
”嗚呼、女神様”

シャーリーズ・セロンの完璧な美の存在感を肌の剥き出し、傷の生々しさ、容赦ない打撃、超えることのできない美貌にて象徴的に描いてしまったと言えるアクション作品。特にシャーリーズ・セロンの存在感の前に、魅了されたソフィア・ブテラを置くことで、際立たせるイデア感。ストロングスタイルでかつスポーツマンシップに交わるセロン×ブテラのベッドシーンは圧巻。それを彩る、かつての冷戦の世界に対して熱を帯びていた音楽たちのエネルギーは、「ベイビードライバー」や「ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシーvol2」「ララランド」に引けをとっていない。そして女である中で、傷や痛みを恐れることのない痛みと表裏一体の打撃による快感性の強いアクションは、「ジョン・ウィック」シリーズの女性版としてのアップデートにして「ディストラクション・ベイビーズ」の背徳感も思わせる、美が穢れながらも完成されていく様に思えた。タルコフスキーをバックにスクリーン前の影絵的な格闘シーンは、スパイ娯楽作品に一石を投じた「スカイフォール」の意思を感じた。そして圧巻の長回し風のロングカットのどこまでも続く苦痛と暴力性のプレッシャーに疲弊することで没入感を得た。

しかしながら決定的に惜しいのは、ノイジーに情報密度が高いこと。アクションのセンスは抜群だが、ストーリーラインの騙し合いの混乱、音楽の強烈ながらサウンドの大きさに視覚と聴覚に降りかかる情報量、そしてアクションや長回しにこだわった場面でのカタルシス性の薄さが、スタイリッシュでハードボイルドなコーディネイトを跳ねた泥のシミのように感じてしまったことで傑作級への熱量を失ってしまった意欲的で貪欲な佳作止まりだった。