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静かなる復讐のMASHのレビュー・感想・評価

静かなる復讐(2016年製作の映画)
4.0
邦題に偽りなしの内容。寡黙な男ホセの復讐が静かに語られる本作。僕が思うに、ヨーロッパの映画はハリウッド映画などとは違い、本当にセリフなども最低限でほとんどが俳優たちの表情やセリフの間のみで成り立っているように感じる。ヨーロッパの映画はそれが故に少し退屈なイメージを持っていたが、この映画は強い緊張感が張り詰めており観客を引きつけて離さない映画となっている。

前半はほとんど主人公ホセやその周りについての説明がなく、ただただホセの日常が淡々と描かれる。普通だと退屈に感じてしまうような部分だが、主演のアントニオ・デ・ラ・トレの演技力の高さによって目が離せないものになっている。彼の"家族"というものに対する羨望やそれを失ったことに対する喪失感を表情や雰囲気だけで表現している。そして演出もその演技に余計な味付けをしておらず、全体として繊細な作りになっている。

では後半からは怒涛の展開かと言われればそこまでではなく、前半同様の物静かな演出のままではある。しかし、そこまで抑えられてきた主人公の怒りや悲しみというのが一気に放出され、緊張感が張り詰め始める。そして主人公だけでなく、彼に協力させられることになったある人物の描写もまた素晴らしい。ホセに対する罪悪感や同情、恐怖が表されており、復讐モノというよくあるジャンルにまた違うバディモノのようなエッセンスが加えられている。そして、その先に待ち受ける残酷な事実がより復讐という行為の虚しさや焦燥感を際立たせている。

復讐モノという激しさを求められるジャンルでありながらここまで静かに仕上げられている作品も珍しい(『ブルー・リベンジ』などに近い気もするが)。地味と言ってはそれまでの映画ではあるが、その静かなる復讐に中に込められた悲しみと怒りは計り知れないものがある。罪を犯した者には罰が、罪を償った者には救いが、そして復讐を行った者には何も残らないのだ。
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