Hiroki

エジソンズ・ゲームのHirokiのレビュー・感想・評価

エジソンズ・ゲーム(2019年製作の映画)
3.5
まずは邦題問題から。
邦題は『エジソンズゲーム』。いかにもそこの浅いタイトル。
原題は『The Current War』。
意味は“電流戦争”。いわゆる本作のメインになっているエジソン(ベネディクト・カンバーバッチ)とウェスティングハウス(マイケル・シャノン)の電力システムの覇権争いの事。
そしてcurrentは“現在の〜”という意味もある。
この電流戦争は今世界で起きている5G回線を主とする“電波戦争”とよく似た構図である。
このタイトルにはそんなダブルミーニングが隠されている気がする。
エジソンもウェスティングハウスも命をかけた戦争を『ゲーム』だなんて言われてさぞあの世で嘆いている事でしょう。

さて本作タイトルは素晴らしいんだけど内容はお粗末。
なんだか焦点が定まらない物語。
“電流戦争”という実在の出来事を描くんだけど、
史実に基づいて実際にあったことをシステマティックにリアルに描くようなものでもなく、
かと言って史実は置いといてドラマティックにメロウに描くというようなものでもない。
そこらへんが非常に中途半端。
実際エジソンを描くなら、
みんなが思い描くような“メンロパークの魔術師”と言われる発明王としての天才の側面を描くか?
それとも、実際はまともに教育も受けられず努力を重ねて家族もかえりみず研究に没頭して性格に難があり訴訟を起こしまくる訴訟王の側面を描くか?
どちらかに振り切るべきだった。
本作はそこも中途半端。

1番イライラしたのはエジソンが妻メアリー(タペンス・ミドルトン)との死別を悲しむシーンがあるんだけど、それでこの流れが終了している所。
実際は2年後に別の富裕層の女性と結婚してその結婚生活の方が長かった。
これは明らかな“かわいそうなエジソン”へのミスリード。
もう一つは最後のエジソンとウェスティングハウスの万博での会話。
たぶんこのシーンはフィクションだと思うんだけど、ウェスティングハウスが「電球を発明した時どんな気分だった?」とエジソンに尋ねる。
劇中にも出てくるけど白熱電球を発明したのはエジソンではない。どちらかというと“事業として確立させた”というイメージ。
それをウェスティングハウスが知らないわけがないし、馬鹿じゃないんだからエジソンもあんなに悦に入った回答をするわけがない。
エジソンは電話機でベルに負け、動力飛行機でライト兄弟に負け、電力でウェスティングハウスに負けても、発明を続けて映画の発明(個人というよりチームエジソンとして)で成功する不屈の男である。
エジソンを舐めすぎ。
これは完全に“劇的なラスト”へのフィクション。
ここらへんがあまりにもチープすぎる。

文句が多くなりましたが、俳優陣の演技は軒並み良かったです。
カンバーバッチとマイケル・シャノンのやり合いが素晴らしいし、ニコラ・テスラ役のニコラス・ホルトもとても良い。
“事業者”としての性格の強かったエジソンやウェスティングハウスよりも、ニコラ・テスラの方が“天才発明家”の顔が強かった。
19世紀末、電流どうのこうとみんなが言ってる時に、ワイヤレスシステムを構想していたテスラはやはり本当の天才だったんだと思う。(もちろん実現には至らなかったが…)
そんな天才の片鱗をホルトはうまく表現できていた。
しかしそんなテスラの名前が冠になっている電気自動車が現在世界で1番多く走ってるなんて感慨深いものがある。

実際撮影後にプロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタインから度重なる妨害(編集指示)があったみたいですね。
上が現場に介入するとロクな事にならない。
ただしワインスタイン事件後に監督のアルフォンソ・ゴメス=レホンは再撮影できたらしいので彼にも責任の一端はあると思うけど。

2020-118
Hiroki

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