ローズバッド

南瓜とマヨネーズのローズバッドのネタバレレビュー・内容・結末

南瓜とマヨネーズ(2017年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます


冨永監督の感性が、今一番好きかもしれない


冨永昌敬監督の過去作『ローリング』の、なんとも言葉にしづらいヘンテコな「感性」が、ドンズバでハマったので、『南瓜とマヨネーズ』を楽しみに観に行った。
本作は、魚喃キリコの90年代後期の漫画原作ではあるが、依存体質の男女の恋愛、金の工面、キャバクラ、エロ要素…などなど、オリジナル脚本の『ローリング』と非常に似た題材だった。
(主役が、美女とオッサンという大きな違いはあるが)
監督が映画化を熱望したのか、プロデューサーが監督を抜擢したのか、いずれにしろ得意ジャンルのストーリーが、監督の「感性」にバッチリ合致している。

本当は「感性」なんて曖昧な言葉は使いたくないのだが、他に適当な言葉が思いつかない。
その「感性」を、むりやり例えるなら、「沸点に達しない…というより、そもそも熱さない。軽くかき混ぜるのみ」といった感じで、「依存関係をたいして糾弾しない・さして自立しない」という脚本に最も顕著に表れている。
この温度感に、さらに奇妙なズレ感もあり、脚本にも演出にも一貫している。
この言葉にしづらい不思議な「感性」は非常に希有な才能であり、魅力的な作家性である。

本作のストーリーは、古今東西ありふれた話であり、同じような男女は日本全国に1万組ぐらいいるだろう。
未読だが、原作も「お話」ではなく、漫画の「文体」に魅力があるのだと推測する。
魚喃キリコの独特のテンポや、白黒ハイコントラストの空間、うつむいた横顔を前髪が隠す人物描写などに、読者は感情の広がりを想像するのだろう。
同じように、本作にも監督の独特の演出の「文体」が多数あるので挙げてみる。


ミュージシャンにまつわる話でありながら、劇伴音楽がほぼない。
ツチダ【臼田あさ美】とせいちゃん【太賀】の別れから回想のシーンに、不穏なノイズ的な劇伴があるのみ。
ライブハウスでの仕事シーンは、いつもセッティング中で演奏なし。
せいちゃんのギターは、いつも風呂場のガラス越し。
場面替わりでのタブレットのライブ映像も音声なし。
車内での試聴では曲が流れるが、くぐもった音。
まともに音楽を使わないというハードルを上げまくった状態で、ラスト、せいちゃんがついに作った曲の歌唱シーンがくる。
しかもギターをやめて、パーカッションのみという、シンプルな演奏の選択。
せいちゃんの唄の一発だけで、ツチダと観客を感涙させなければならない超高いハードルを、太賀のややハスキーな歌声と、やくしまるえつこの詩と曲が、やりすぎない絶妙なバランスで超えてくる。
危険な賭けに勝った、監督・太賀・やくしまるを賞讃するほかない。

音に関しては、飲食店シーンの隣席のガヤを切っていたり、エンドロールも無音かと思わせてから、物語の生活音を入れるなど、奇妙な感覚を引き起こす仕掛けがある。

居酒屋の座敷・バー・立ち呑み屋など、ロケーションと美術は味わい深く作られているが、さして強調しない。
同棲部屋のたまったゴミ袋や洗い物なども、これ見よがしには撮らない。

ファッションも「ダサかわ」を狙いすぎない。
(オシャレ自慢じゃないのが、本当のオシャレ感だとも言えるが。)
ツチダの白い布カバンや上下スウェット、ハギオ【オダギリジョー】のビーサン、そして仁義なき戦いTシャツなど、控えめなバランス。
主要人物よりも、脇役バンドメンバーに関して、横分け色眼鏡やカワイイ系柄物など、ファッションでキャラ付けしている。

原作を踏襲しているのだろうが、台詞もあっさりしている。
細かい言葉から、人物の過去をにおわせるような仕掛けもない。
ナレーションの心の声も、観客に伝わっている事であり、さして重要な事は言っていない。

このように、全ての要素が、抑制された絶妙で奇妙なバランス感覚を持っている。
当然、ラストカットも素っ気なく別の道を行く、ささやかな幕切れ。

そして、色味へのこだわりが非常に印象的だ。
室内や街灯では肌が黄味がかった色に染まり、昼の屋外や外光は少し青味がかる。
ラブホの窓も一面、青い照明が仕込まれている。
せいちゃんが「家を出る」と告げ、ツチダが泣き崩れるシーンでは、真っ赤なタオルに顔をうずめる。
特に『ローリング』から引き継がれた黄味のニュアンスは、ありそうでない作風で、凄く僕の好みだ。

さらに、冨永監督の作家性の注目点は「エロ目線」だ。
これは「性愛のどうしようもなさ」を誤摩化さない重要ポイントだ。
冒頭から、シャワーの足先に競泳水着と排水口、ホットパンツの太もも…などが、アコギ、音響ミキサーなどと、クロースアップになる。
『ローリング』では「おっぱい」だったが、今回は、ホットパンツや体操服の「太もも」と「尻」に執拗に迫る。
セックスシーンそのものがないのは、女性客が多い作品だから躊躇したのだろう。
臼田あさ美はおっぱいNGなのか解らないが、オールヌードの後姿を披露する。
「もうちょっと太れ」と尻を撫でまわす光石研に言わせたのは、監督の本音ではないだろうか。
たぶん、本当は、わかりやすくエロいムチムチ系が好みだと推察する。
まったく、信用できる監督だ(笑)