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ビジランテの小のレビュー・感想・評価

ビジランテ(2017年製作の映画)
3.7
このところ鑑賞後1週間程度後になってから感想文を書くペースとなっていて、本作も初日舞台挨拶付きで見たにもかかわらず今頃に…。

んで、舞台挨拶では三郎役の桐谷健太さんと入江悠監督が「代表作になった」と言い、入江監督は日本経済新聞で自身の作品をスルーしていた記者が星5つを付けたと、やや興奮気味に話していた。

入江監督によるオリジナル脚本で、地方都市のショッピングモールにまつわる利権をめぐって、三兄弟がそれぞれの立場からぶつかり合う物語。

冒頭、暗闇の中、川を渡って逃げる3人の少年たち。やがて怒りの形相の父親につかまり、殴られ、長男が家を飛び出していく。この日母親が亡くなったらしく、強権的な父のもとで育つのは大変だろうなあと思っていると、父親が亡くなった30年後へと話が飛ぶ。

監督によれば、オリジナル脚本で何を描くかと考えた際、結局自分のことにしようと思い、3兄弟それぞれを自分が持つ一部分を投影したキャラクターにした、というようなことを話していたと思う。

一郎はダメな部分。自分勝手で暴力的。高校時代に行方をくらまし、父親が亡くなると戻ってきた。多額の借金があり、横浜のヤクザに追われている。公正証書をたてに、土地を自分一人が相続すると主張する。

二郎はズルい部分。長いものに巻かれるタイプ。市議会議員で、野心家の妻の尻に敷かれている。相続する土地がショッピングモールの建設予定地にあり、先輩市議たちから建設に支障がないよう、兄弟でしっかり話をまとめるよう念を押されているから、一郎の存在に頭を痛める。

三郎はカッコイイ部分。欲がなく、何としてでも女性を守ろうとする。地元ヤクザ系列のデリヘルの雇われ店長をしている。父の遺産に興味はないものの、先輩市議から頼まれた彼の雇い主から、一郎に相続放棄させないとデリヘルの女を…と脅される。

さらにモールの建設予定地には中国人が住んでいて、二郎が団長(だったかな?)を務める自警団と衝突する。自警団の中には、極端に右傾化し、今にも鬱憤が爆発しそうな若者もいて…。

地縁、血縁が濃く、閉鎖的な地方都市で、こじれにこじれる土地問題。その行く末は暴力による衝突が必然、みたいな流れ。

<「ビジランテ」とは、法や正義が及ばない世界、大切なものを自ら守り抜く集団>(公式ウェブ)だという。劇中、二郎の自警団は登場するけれど、それが物語のメインではない。だとすれば、3兄弟が「ビジランテ」なのだろう。

映画の中の3兄弟は集団とは言い難いけれど、監督の一部の分身だから、3人がまとまり集団となることで大切なものを自ら守り抜く、つまり生き抜いていくための1つの人格となるのだろう。

良い部分も悪い部分も自分であり、そのすべてを認めることで「ビジランテ」となりうる。そんな感じじゃないのかな。だとすると「寒くて本当に死にそうだった」という川での3兄弟のシーンがとても重要だった気がするのだけれど、細かい部分までよく覚えていないのが残念。ビデオが出たら、確かめようかな。

●物語(50%×3.5):1.75
・腑に落ちてくるものがイマイチ足りない感じかな(自分のせいですが)。バイオレンス映画好きな人には良いかも。

●演技、演出(30%×4.0):1.20
・桐谷健太がカッコよすぎではあったけれど、皆良かったように思う。

●画、音、音楽(20%×3.5):0.70
・パッとしない地方都市の雰囲気が良く出ていたのではないかと。
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