MasaichiYaguchi

空飛ぶタイヤのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

空飛ぶタイヤ(2018年製作の映画)
3.8
実際に起きたリコール隠し事件をモデルとした池井戸潤さんの小説を、長瀬智也さん主演で「超高速!参勤交代」シリーズの本木克英監督によって映画化された本作からは、企業人としてどう在るべきかという以前に、人としてどう在るべきかを突き付けられているような気がする。
業種は違うが、私も財閥系企業のグループ会社の末端に所属する営業職サラリーマンとして、過去に幾つもリコールやそれに近い製品不具合を〝最前線〟として対応してきたので、本作で敵側となるホープ自動車の幹部を除く人々の葛藤が理解出来る。
とは言うものの、業務上過失で無辜の人を〝殺めた罪〟は決して許されるものではない。
この骨太な社会派作品は、自己保身、事なかれ主義、閉鎖性、無責任構造という〝大企業病〟を浮き彫りにしながら、その〝病〟に押し潰されそうになっている中小企業の代表のような運送会社の社長が〝不正〟を許さず、粘り強く戦い続ける姿を熱く描いていく。
トラックのタイヤ脱落事故を巡って戦う長瀬智也さん演じるこの社長・赤松徳郎以外に、本作では夫々の立場で戦う男達が何人か登場する。
彼らは初め、所属する組織や自己保身の為に戦っていたが、「雨垂れ石を穿つ」ように赤松の熱意が彼らを揺さぶっていく。
実際の事件をモデルにしているので同様な結末を迎える訳だが、私は溜飲を下げる結末に至るまでのプロセス、それこそが原作を含めた本作の〝肝〟だと思う。