岡田拓朗

空飛ぶタイヤの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

空飛ぶタイヤ(2018年製作の映画)
3.8
空飛ぶタイヤ

2000年代に起きた三菱リコール隠し事件を基に、池井戸潤が書いた小説「空飛ぶタイヤ」の映画化。

池井戸潤作品と言えば、「下町ロケット」や「陸王」、「民王」など、原作がドラマ化される印象が強い。
今作は初めて映画化された作品で、ドラマの印象から、映画にするとどうしても細部が描かれずに物足りないのではないか、と思ったが今作の場合は、事件の真相を暴くという題材だから映画でも長さ的に全然大丈夫だった。

池井戸潤作品の特徴として多いのは、大きい立場の人や組織に小さい立場の人や組織が正義を貫いてあらゆる人の心を動かし、一発逆転で下克上を果たすこと。
今まで観てきたのはフィクションだったので大事なことは描かれつつも夢物語な一面もあったが、今作は実話を基にしていからこそよりリアリティがあってよかった。

財閥系企業や政府や金融機関やマスコミなど、社会に大きい影響を与える組織においては、中にいる人次第で本当に社会がよくも悪くもなるから怖いなと強く感じた。
たまに思うのが、中小零細企業のような社員や顧客を大切に向き合っていく姿勢を持っている人が、そんな組織のトップに入った方が確実に社会はよくなるだろうと考えたりもするが、実際にはそうならない。

それはやはり未だに蔓延る組織内政治や今作のようなトップにいる人の邪魔すぎるプライドと自己の保身がまかり通っているからに他ならないと思う。
だから本当に正義や正しさを持っている人がそんな組織に入りたいとも思わないし、そもそもトップになれない組織体制になっている。
問題を起こしたとしてもその組織がないと社会が循環しないし、不利益になる人がいるから深入りできない。
そんなことが未だに財閥系企業や政府や金融機関やマスコミなど、社会の行く末を大きく左右する組織に起こってるとすると本当に怖い。

アメリカが財閥解体を実施したのも、そういう意味では正しかっただろうし、日本が昔、誤った方向に舵を切るとより取り返しのつかないことになっていたのはより組織に刃向かうことができない体制になっていたからだと思う。

今作はそんな社会の中、中小零細企業、財閥系企業の一員、マスコミの一員、金融機関の一員、警察の一員が、正義を貫き、それぞれの立場から立ち上がり力を合わせることによって、事件の全貌を明るみにできた貴重な一例が描かれていて、それがこの豪華なキャストで実現していかに社会全体に正しさが浸透していくか、が問われる作品でもある。

影響力の大きい力は悪いことに利用されると理由なく平気で人の命が削られていき、ときには失われる。
それが現実であることをひしひしと感じ、それでもまだ変わらない社会を見ると、組織や構造を変えるのが相当難しいことがわかる。

そして解決のためには以下のポイントが必要な気がする。
・できるだけ多くの人が大きい権力に支配されない状態
・三権分立の徹底、もしくはそこに市民が入る四権分立の登場(制度的には不可能だと思うが、SNSの発展や個人が影響力を持つことによる真実の見える化)
・なくてはならない正しさを持つ企業を増やすこと
・できるだけのことが民営化されること(先ほどの四権分立にも繋がる?)
・マスコミだけでない正しい発信のプラットフォームを増やすこと
・誰もが発信できるツールを余すことなく使うこと

徐々に進んできていて、隠蔽されてることが公になってきてるのは事実ある。
それでも抜本的にはなかなか変わらない。
自分は直接的に戦うようなことになったことはないが、そういうのが嫌いだからできるだけ近寄らないようにしている。
それはどこで働くか、どう働くか、を新卒のときから一番大事なポイントにしてきて、基本的に日系大手は避けてきた。
でもいつその被害者になるかはわからないから、徐々にでも変えることに寄与できたらなーと思った。

何はともあれ、今作は小さな正義が結集することで、真実が明るみになり、赤松社長が救われて本当によかった。

P.S.
高橋一生の役がかなり渋い。
岡田拓朗

岡田拓朗