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ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男のsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
見といて良かった「ダンケルク」「英国王のスピーチ」

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原題「DARKEST HOUR」に邦題「ウィンストン・チャーチル」はまあいいとして、サブタイトルがなんともダサい。ヒトラーから世界を救った英雄譚じゃないし、そもそも救ったわけじゃなし。「ドリーム」の騒動から何も学ばず、進歩もせずで心底ガッカリする。


突然の首相就任から20日間あまりを描いた本作。
暗闇に葉巻につけるマッチの日で浮かび上がるチャーチルの顔で始まり、随所で暗闇に一人佇む姿が印象的。戦時下の難局にあって、孤独を深め苦悩と葛藤の暗闇に放り出された男の物語として楽しみました。

おそらくチャーチルの回顧録を元にした脚本で、どこまで史実なのか分かりませんが(地下鉄のエピソードとか)、権謀術数渦巻く世界で政界一嫌われた男の支えとなったのが、まさに無名の人々の声。孤独な戦いの背後には、たくさんの声なき声があったんだと気付かされる展開が感動的。

「英国王のスピーチ」同様クライマックスの大演説は感動的だし、勇気をもらえる熱いシーンだけど、歴史的にその後起きることを考えると手放しで喜べない。「や、結果オーライなだけなんじゃ?」みたいな。
ヒトラーにしろチャーチルにしろ演説の巧みさでのし上がった政治家なわけで、むしろ言葉の持つ力の巨大さ/危うさに怖くなった。扇情的なフレーズで作られた世論の大風が国を動かしちゃうおっかなさ。

どっかのジョークで「クイズ番組でおばあさんが正解するが、隣のおっさんが不正解でも声が大きかったので得点はおっさん!」て聞いたことがある。言ってる事の正しさより、声の大きさが正否を決めてしまう。大きな声をより大きな声にするのが正しさとするなら、小さな声の人たちには地獄みたいな話だ。
結果的に、煽られ流されやすい人間の性(さが)みたいなものを描いてしまったような気がします。

今まで獲ってないのが不思議なゲイリー・オールドマンの大熱演。あれだけ特殊メイクされてて、目と口くらいしか表情がないハズなのに、固い決意にユーモアを称えた頑固爺を見事に演じきってました。が、ゲイリー・オールドマンならいつもこれくらいの名演してるので、今作でのアカデミー主演男優賞受賞はこれまでの功労賞も含めてってコトだと思います。
撮影用に高級葉巻2万ドル分もかけた甲斐あって、咥え葉巻姿がカッコいい! おかげでゲイリーはニコチン中毒になっちゃったそうだけど。


タイピストのリリー・ジェイムスは狂言回し 兼 画面の花。黒いスーツのオッサンばかりでモノクロ映画かと思うような世界観の中で、鮮やかなスーツ姿がハイライトになってたし、事情を分からない人がいるおかげで説明シーンがスムーズになったのも良かった。

黒を基調に、彩度の低いカラーリングが印象的で、戦時下の暗い世相を匂わせる色使いもよかった。まさに「DARKEST HOUR」って感じ。

30本目
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