こたつむり

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男のこたつむりのレビュー・感想・評価

4.3
★ 政治家として最も大切なもの、それは

端的に言ってしまえば、クリストファー・ノーラン監督作品『ダンケルク』のSIDE-B。史上最大の撤退戦の裏で起きた政治劇を描いたものでした。

しかも、主人公がウィンストン・チャーチル。
魑魅魍魎の親玉のような政治家ですからね。かなり複雑怪奇な政治劇を堪能できると思っていたのですが…ところがどっこい、物語としてはシンプル。迷いを切り裂いて突き進む“漢”を描いた作品でした。

いやぁ。これはこれで大好物ですよ。
やはり、ヒーローでも政治家でも“信念を貫く”姿にシビれるのです。たとえ、それが善だろうと悪だろうと、そんな局所的な価値観を超越したところにある意思。それが格好良いのです。

それに政治と映画は別物。
たとえ史実として問題のある人物だとしても。
巧みに音楽で感情を誘導されたのだとしても。
我が道を貫くことを高らかに宣言する姿に惚れなくて何に惚れるのか。人が人を動かすに必要なのは“熱量”。それを感じるだけでも傑作なのです。

勿論、冷静に判断すれば。
本作で描かれたことを丸呑みし、ふんがふんがとイデオロギーの旗を振るのは危険です。大切なのは熱に浸されながらも自分のアタマで考えること。相手が信念を貫くのならば、自身も信念を貫くべきなのです。

そう。
其処に在るのは己と相手が対峙する四角いリング。存在意義を懸けて闘えば良いのです。自分が正しい、その想いだけで。嗚呼!なんて筋肉質な物語なのでしょう!

それでいて本作がしたたかなのは、主人公の脇にリリー・ジェームズ演じる秘書を配置したこと。むさ苦しい男たちの中で、ひときわ艶やかで目麗しい花。眼福の限りでした。

まあ、そんなわけで。
娯楽の王道を突き進んだ作品。
特に回想場面を入れずに現在進行形だけで物語ったのは潔くて好感を抱きました。

また、アカデミー賞で受賞した特殊メイク。
確かにゲイリー・オールドマンがゲイリー・オールドマンだと思えない技術は見事な限り。百鬼夜行の《頭領》がふごふごと蠢いている姿は、それだけで観る価値がありますよ。

…ただ、日本オリジナルの副題は…うん。何も言うまい。
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