Ritz

ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男のRitzのレビュー・感想・評価

3.4
【嫌われ者の英雄】

ナチスドイツが猛威を奮った第二次世界大戦初期、和平交渉か徹底抗戦か究極の二択を迫られたイギリスの首相ウィンストン・チャーチルの伝記譚。彼が後に『ダーゲストアワー』と呼んだナチス1強状態の大戦初期の暗黒の時間にスポットを当てて物語が展開する。
本作でみごとアカデミー賞主演男優賞を受賞したゲイリーオールドマン。その盤石たる存在感は同賞でメイク・ヘアスタイリング賞を受賞した特殊メイクの恩恵もさることながらチャーチルという人間のドキュメントを見ているかのような、まさに"本人たる"を思わせる演技は感服の一言。議会の嫌われ者が世界の英雄になるまでの道程をドラマティックかつセンセーショナルな脚色で描いている。しかし、その色付けがどこか事後的というか結果ありきの偶像の構築に見えてしまうところもありいささか居心地が悪い気分になった。完全無欠のリーダーではなく時としてその判断における危うさも描いている点は公平な視点から客観視できるものであったが、終盤の戦意高揚的なアプローチはいささかあからさまな演出にみえてしまい正直あまりいただけなかった。戦後、彼の評価は主に国内国外で二分されるが、チャーチルという人間の功績を称える立場から俯瞰しつつ、しかしあくまで中立を狙って制作された作品というのが正直な印象。戦闘描写は皆無、終始会話劇からなる作品だが緊迫した戦時下の状況がひしひしと伝播してくる構成は見事。しかし2時間の尺では若干キャパオーバー気味だったのはいがめない。世界史に疎くても入り込めるストーリーなので歴史物を敬遠している人にも○。
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