こうん

孤狼の血のこうんのレビュー・感想・評価

孤狼の血(2018年製作の映画)
4.4
おれ23の頃、絶賛モラトリアムで「どう生きたらいいのか」と悩みつつ、夜勤のバイト明けで入り浸っていたのは中野武蔵野館でした。ちょうど閉館した新宿昭和館からヤクザ映画のプログラムが移った頃で、毎日のように通って鬱屈した気持ちを銀幕の鶴田浩二や菅原文太に仮託して熱狂してたんだ。煤けたおじさん達に囲まれ、紫煙たなびく館内(!)で浴びるように東映ヤクザ映画を観たよ。
だからあの東映三角マークを見ると、不良性感度がビンビンにアガるんだ。

そしてその浴びるように観た東映ヤクザ映画の中で、笠原和夫という脚本家の名前を覚えて、何度も何度も繰り返し観た。
日本映画史の中で1番尊敬する人だ。
笠原和夫、稀代の脚本家。

そのイズムが「狐狼の血」の中に生きていた!
「仁義なき戦い」のようであり、「県警対組織暴力」のようでもあり、「くちなしの花」のようでもあった。

しかしただ単に東映ヤクザ映画をトレースしただけの映画ではなく、役所広司と松坂桃李の継承の物語にすることで、昭和の終わりつまりは時代に追いかけられ翻弄され焦燥した男達の情念の物語として語り被せられている感じで、そこが良かった。
暴対法以前の、ヤクザのシノギが巧妙化する前の切羽詰まった感じが良かった。

役所広司さんは円熟味を魅せながら「シャブ極道」の頃の危うさをギラギラさせて良かったし、松坂桃李のルーキー感とジレンマからの〝マル暴ライジング〟の清々しさも素晴らしかった。
真木よう子(こんなに東映三角マークに似合う名前があるだろうか)も阿部純子も良かったし、21世紀の川谷拓三もしくは山城新伍的なキャラをこなした音尾琢真も良かったし、石橋蓮司の盤石さも堪能しつつ、江口洋介の不良性感度を取り戻した感じの成田三樹夫感も素晴らしかったし(時々彼が役名の下の名前で呼ばれるんだけど、それがモリタカなのが笑える)、竹野内豊の明らかな千葉ちゃんの大友勝利感はなんか笑えたし、その他の役者さん達もそれぞれ良かった。
(東映ヤクザ映画の実録路線は大部屋俳優が活きまくった映画群で、そこも意識しているかのように、脇が輝いていた)

全体のルックスとしてあまりにも東映ヤクザ映画をトレースしている感じは如何なものか?とも思ったけど、当世に放り出すエンターテイメントのヤクザ映画として、このくらいまでしないと、面白く見れないのかな?という感じもあって、そこは良しとします。
(要はおっさんホイホイ要素が多すぎるけど、バランスとしては過剰には感じないし、見世物としてスンナリ受け止められたということです)

ちゃんとエグいしエロいし笑えるし滑稽だし、最期にはグッとくる、上質なエンターテイメントでした。相変わらずカクセイ氏の仕事は素晴らしい。見事なドザエモン描写!
白石監督の次回作が楽しみですね。

っていうか、原作は続編あるらしいので、映画も是非!荒ぶるトーリが観たいよ!

びっくりどっきりくりとりす!
昭和最後のガキとしては当時流行った、〝ビックリマン、珈琲、ライター〟にして欲しかったかな。

(そして、あれらはオメコの汁でメシ食うとるんで!を思い出す)

ちゃんと旧新宿東映のバルト9で観たよ。

(多少文句はあるが漢は黙っておく)
こうん

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