TOSHI

孤狼の血のTOSHIのレビュー・感想・評価

孤狼の血(2018年製作の映画)
-
先月、他の映画を観た際に、早く着いて待合室で時間を潰していた時、本作の予告が繰り返し流されていたが、古舘伊知郎氏の「アウトレイジに対する東映の答えですね」という推奨コメントが印象に残った。このコメントを採用するという事は、アウトレイジを意識しているのは事実なのだろう。
冒頭のロゴや時代がかったナレーションから、かつての「仁義なき戦い」等「実録路線」のスタイルの復活である事は明白だ。アウトレイジ・シリーズが集結した今、実録路線をリブートしようというのか。警察も含めて全員悪人という意味では、アウトレイジ的ではある。
昭和63年、広島・呉原市(架空の街)。暴力団対策法成立前で、暴力団壊滅を図る警察と、生き残りをかける暴力団の攻防が熾烈を極めた時期だ。昭和的な暑苦しい雰囲気が、スクリーンを支配している。
巨大組織・五十子会系の「加古村組」と、地場の暴力団「尾谷組」との抗争が燻る中、加古村組傘下の金融会社の経理担当社員・上早稲(駿河太郎)が失踪する。拉致された加古村組組員達からの豚の糞を喰わせたり、指を切断されるリンチが強烈だ。呉原東署のマル暴のベテラン刑事・大上(役所広司)と、新人刑事・日岡(松坂桃李)は、解決のため動き出す。日岡にパチンコ屋で監視していた加古村組・苗代(勝矢)に因縁をつけさせ、苗代が日岡をボコボコにした所で、広大(広島大学出身)と呼ぶ日岡に罪状と刑期を言わせ、「これで今、お前の車の中にシャブがあったら合わせて10年じゃ」と怒号を浴びせる事に、大上の目的のためなら手段を選ばないやり方が分かる。マル暴刑事は外見がヤクザのような人が多いらしいが、大上は捜査手法がヤクザのようだ。逮捕しない見返りに上早稲について訊くが、その反応から大上はある確信を持つ。そして十子会系の瀧井組組長であり、幼馴染である瀧井(ピエール瀧)から拉致に関する情報を得る。

捜査が進む中、クラブ梨子のママ・里佳子(真木よう子)に言い寄った、加古村組・吉田(音尾琢真)を射殺しようとした尾谷組の組員が射殺され、加古村組と尾谷組の間で緊張が高まる。大上は尾谷組から金を受け取り、癒着しているようだが、抗争が始まるのを阻止しようとする。警察と二つの組の間で、フィクサー的な立ち回りをしている訳だ。大上は日岡に、「奴らを生かさず殺さず飼い殺しにするのが、わしらの仕事じゃろうが」と言う。警察の方針通りに壊滅させても、地下に潜り市民と見分けがつかなくなるだけだとする大上の主張は一理あるが、組織に所属する以上、単独で背任的な行為をしている事になり、破滅と背中合わせの綱渡りである。タイトルの孤狼とは、一匹狼の大上を意味しているのだった。正義など追求せず、善悪をはっきりさせない事を良しとする、風変わりな一匹狼であり、アンチヒーローだ。
日岡の隠された面が明らかになり、上早稲殺害の証拠を見つけ加古村組を追い込もうとする大上に、過去の重大な不正を暴こうとするある人物が現れて…。終盤の展開が凄まじいが、観終わってみると、本作の主人公は日岡のようにも思えた(割愛したが、日岡のある女性との交流も描かれている)。日岡の〝覚醒”シーンが、最高だ。

アウトレイジ最終章が、役者陣が病み上がりだったりで、物足りない部分があっただけに、暴力団全盛の時代の、欲望を剥き出しにした、ギラギラした男達のぶつかり合いは見応えがあった。加古村組組長・加古村(嶋田久作)や若頭・野崎(竹野内豊)がお飾り的だったのは残念だが、五十子組組長・五十子(石橋蓮司) や“仁義ある”ヤクザを体現した尾谷組若頭・一之瀬(江口洋介)などは流石の存在感だった。何といっても本作の見所は、大上と日岡のぶつかり合いだろう。あくまで警察としての正義の論理で捜査を勧める日岡と、警察のやり方からはみ出している大上の対立が、ヤクザ同士の衝突と交錯するのがスリリングだった。

映画のスタイルとしては過去に廃れた古い形式だが、デジタル撮影でフィルム撮影のように色をくすませる等、それを新しく見せる工夫が随所に感じられ、実録路線とは一味違う、白石和彌監督ならではの作品になっていた。問題行為を抱えながらも、己の論理で生きる大上の人物像や、警察は皆悪人という設定も、白石監督らしい。往年の東映実写映画のスタイルを活かしながら、白石監督流のノワール映画に仕上がっていた。警察批判に加えて、局部を××する拷問シーンなど、近年の映画界を覆うコンプライアンスの機運を省みない姿勢にも、喝采したくなった。
原作により、暴力団に勢いがあった時代という意味で、現代ではなく昭和時代が舞台なのは不満だったが、多くの新作映画とは一線を画す、骨太で重厚な人間ドラマになっていた。原作にも続編があり、ラストシーンからも続編がありそうだ。アウトレイジ・シリーズなき今、新たな“決してテレビでは放送できない”人気シリーズを目指してほしいと思う。
TOSHI

TOSHI