とむ

孤狼の血のとむのネタバレレビュー・内容・結末

孤狼の血(2018年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

「じゃあ聞くがのう
正義たぁなんじゃ?」

この台詞一言が、今作の全て。



「凶悪」で「スゲー監督が出て来たぞ!」と興奮し、

「日本で一番悪い奴ら」で「あれ、イマイチになっちゃったかな…」と続き、

「彼女がその名を知らない鳥たち」で「おれの期待は勘違いだったのかもしれない…」
と見限ってしまった自分にとって、

今作は
「何寝呆けたこと吐かしとんじゃあ、ワレ!!」
と咥内に押し込まれた豚の糞が如く衝撃だった。
(映画を見ていれば、これがどれ程の褒め言葉かわかってもらえるはず)


白石和彌監督偉いなぁ、と思うのは、毎回表現として新しい何かを出して来てくれる。
「凶悪」で言う、振り返るとユンボがいる、とか。
「日本で一番…」で言う、カメラを縦にも横にも斜めにも使ったカット割とか。
「彼女がその名を…」で言う、『砂』とか。
ちょっとアーティスティックとでも言えばいいのかな。

今作でも、やっぱり独特なカット割り。
「あー、白石和彌だなぁ」と思う撮影的な演出が多かったですね。


あと、ヤクザ・マフィアものに大事な新しい拷問。
前述の豚の糞とか、指ちょん切るところちゃんと写してたりとか、真珠を「摘出」するところとか…
とにかく、容赦ない表現で、そのシーン流れてる間ヒエーーッていうよくわかんないポーズしながら観てました。
ある種、大満足です。


これは原作者に対しての賛辞になるけど、
タイトルの付け方も抜群ですよね。

血っていうのはつまり、
「巡る」ものであり、
「流す」ものであり、
そして、「継ぐ」ものでもあるわけです。

つまり、この虎狼の血っていう作品はある種、
他人である大上の血を日岡が受け継ぐ物語に他ならないわけです。

但し、単純にやっていることを模倣するのではなく、
「彼なりの綱渡り」を始めることが、
彼にとっての継承だったのかもしれないな、とか思ったり。


一人一人の役者の芝居も素晴らしかった。
日岡が苗代にコーヒーぶちまけてからの
「あ?わしの知ったこっちゃないわ(スコ-ン)」
でこの映画に対しての不安は完全になくなった。

原田眞人版の「日本のいちばん長い日」でも同じことを感じたけれど、
松坂桃李は真面目の度が過ぎて、
肚に一物抱えるに至った青年を演じさせるとピカイチの俳優だと思う。


言わずもがな、役所広司のお芝居は最高でした。
ただの暴力チンピラ刑事なのかと思いきや…な数々の名シーン…天晴れです。

溺死体も本人の芝居だったりしない?
そんくらい鬼気迫る熱演でした。



「一人で飲むのも虚しいけん、もう一軒付き合えや」
「いえ、今日はもう帰ります」
「付き合い悪いのぉ、そんなだから女の一人もおらんのじゃ」
「女くらいおります」

このやり取りで見せる大上が日岡に向ける少し小馬鹿にしたような笑顔は、
自分の息子に向ける慈愛の眼差しに他ならない様な気がした。
とむ

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