海老

孤狼の血の海老のレビュー・感想・評価

孤狼の血(2018年製作の映画)
4.3
先日、安西先生に「有給が取りたいです…」と告白したところ、念願叶いまして本日は映画の日となりました。

朝一番からどぎつい映画で大丈夫かなと思いつつ、もう枠がないのでどうしても観たい気持ちを優先して駆け込む。
大正解。駆け込んで本当に良かった。

咽せ返る程の漢気に満ちた、手加減なしの暴力。「万引き家族」のタイトルにかえ噛み付く的外れな「不謹慎」の検閲に辟易する事は多い昨今。そんな中にあって一切手を抜かない作品をこのご時世に観られた事は感謝でしかありません。

暴力も残酷表現もとことん苦手な僕が、瞬きすら忘れるほど、一瞬も目を離せなかった。スクリーン越しに伝わってくるかのような血と汗の匂い。魂を剥き出しにする迫力から目を逸らすなんて、出来るはずもない。
彼らの生活する昭和の時代、かき氷に黒電話にナレーションの古臭さ。この古さがまた哀愁を携えた粗暴な漢たちを立てるのに最高の舞台。

言葉の持つ力にも改めて気づかされます。広島弁というのは、何故こうも魅力的に聞こえてしまうのだろう。漢たちの雄々しく荒々しい言葉から、女性陣の強くも愛らしい喋り方まで。この映画を観て広島弁を真似たくなる人が続出するのも当然だなと思う。

何よりも、ガミさん、大上の漢気に惚れたのは言うまでもありません。カタギを守るための彼の途方も無い覚悟には心底痺れる。警察にも極道にも従属せずに「一生」闘う覚悟とはどれほどのものか。悪を抑制して終わるほど世の構図は簡単じゃ無いからこそ、泳がせるために終わりのない綱渡りをするという彼の言葉は重みも説得力も違う。文字通りに対岸、スクリーンのこちら側から彼なりの「正義」を傍観するしか無い自分が情けなくすらある。

彼らの生き方の迫力には、どんな形容詞も野暮に思えてしまう。

ジッポライターのフリントウィールを回す、新しい幕開けの音に全身を総毛立ちさせながら、素晴らしい物語を見せてくれたスタッフロールに喝采を送るのでした。
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