賽の河原

孤狼の血の賽の河原のレビュー・感想・評価

孤狼の血(2018年製作の映画)
4.4
別にヤクザ映画とかよう観ないですし「東映ヤクザ映画の古き良き〜」とか言われてもそういう教養がないんですけど、平成生まれでそういう素養がない私が観ても分かるコテコテのヤクザ映画感といいますか、ザラザラした感じのハイライトですとか、画面の停止とか音楽やナレーションとか「あぁ、観たことはそんなにないけどこの質感だよね」って感じが好きですし、やっぱり我々みたいな世代には先行するヤクザ映画に興味を持たせるような奥行きあるオマージュだと思いましたよ。続編の製作も決まってるとか最高か...
「バイオレンス描写が最高」みたいな話は巷間にありふれた意見ですが、言うまでもなく同意ですね。暴力が秩序を形成するヤクザの世界というのは当然のことながら観客の世界とは一般的には別のレイヤーの話、それ故にこうした非日常的な暴力描写、死、性とかは観てて最高といいますか、それだけでエンターテイメントですわ。
本作が面白いのはその「暴力が秩序を形成するヤクザ世界」というレイヤーと「権力が秩序を形成する世界」を「警察」を媒介にして曖昧にしてるのがチョー面白かったっすね。
マル暴のベテラン刑事の役所広司と新人刑事の松阪桃李のバディものなんですけど、まぁ役所広司が本当に最高ですね。刑事なんだけど捜査のためならヤクザと癒着してみたり不法侵入に放火に拷問とやりたい放題ですわ。観客は新人刑事の松阪桃李さん同様に「こいつ刑事なのにヤバすぎや...警察とは...」ってなるんですけどねこれが本当に最高ですよ。
こっからは適当な説ですけど、この映画は教材みが高いですわ。
ヤクザが跋扈する、法や警察権力が機能しない、なんなら権力の行使が恣意的に行われる。むちゃくちゃ中世的な世界ですよ。「ミミヲキリ、ハナヲソギ」っていう話とこの映画の中で振るわれる暴力の質は同様ですわ。
社会科民としてこの映画は中世的な世界を描いているって点で非常に面白いですし、「そもそも法(権力)が機能するために必要なものは何か?」とか「暴力団の排除は何をもたらすか?」とか禁酒法とかアメリカの大麻の話とか、それこそ日本のヤクザの話をしても最高だと思いますし「我々が生きている世界からは暴力は排除されているが、暴力なき世界では、何が私たちの世界の秩序とか権力構造を成り立たせているのか?暴力に変わるものは何か?それは本当に公正か?」とかね。
ラストショットも素晴らしいキレなんですけどね「お前らな、これくらいのことがないとやっぱりタバコは吸っちゃいかんよ」っていう啓発にもなる最高の映画でしたね。
広島弁×ヤクザっていう掛け算の発見も今更ながらノーベル賞並みに人類の福祉に寄与する大発見だと思いましたし、ヤクザ映画っていうのがクソ面白いテーマだという知見を得たので今後積極的に観たいすね。
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