dm10forever

はじまりのボーイミーツガールのdm10foreverのレビュー・感想・評価

4.0
【少年時代】

まずこの邦題とフライヤーを見た限りでは「青春期よりもさらに前の少年期の甘酸っぱい初恋もの」を想像していました。

『女の子ってなんで嘘をつくの?』

特に小学生の頃って男の子よりも女の子の方が心身共に成長が早いですから、男の子はとにかく振り回される側ですよね。僕にもそんな思い出がありますよ(微笑)。

クラスでも成績優秀でお嬢様のマリーはとにかく憧れの的。ヴィクトールも彼女に好意を寄せるも、遠くから眺めることしかできなかった。なにせクラス一番秀才のロマン(エマ・ワトソンそっくりな男の子!)がアプローチしても軽くあしらわれちゃうくらい。テストで0点とっちゃうようなヴィクトールが彼女に近づけるわけなんてないよね~。
しかし、ある日なんとマリーから「勉強教えてあげよっか?」と逆アプローチ。「な、なんでだよ!?」強がるヴィクトール。
ここら辺の描き方がなんか良かったな~。初々しいというか「あぁ子供の頃ってこうだったよな・・・」って心の奥の方がくすぐられるような感覚。
男の子って、女の子からの不意打ちにとにかく弱いんですよね。
席が隣になっただけでも「もう席替えはいらない」って本気で神様にお願いしたり、教科書忘れて見せてもらった時の微妙な距離とか、好きな子のランドセルが開いた瞬間に「フワッと」香る「香り玉」の優しい香りとか(40代くらいの方ならわかる香り玉)。
日曜日、何の用事もないのに友達の家に行く道をちょっと遠回りして好きなこの家の前を自転車で通って見たり・・・。
「青春時代」ではないんです。テクニックの「テ」の字も持ち合わせていない「少年時代」なんです。だからこそ初恋ってキラキラ輝いた思い出になるんだろうなと思います。

ただね、この映画の核になる部分はもう一つあって、それがコピーにもあった「嘘」なんですね。

先日偶然にも「5%の奇跡」という似たようなテーマを扱った映画を観ました。主人公が先天的な目の病気から視力を失っていくというものです。
5%の奇跡という作品では、主人公サリヤ(通称サリー)が様々な困難にも負けずに夢に向かって突き進むというストーリーでしたが、今作も同じように一流のチェリストを目指して頑張るマリーの健気な姿が印象的でした。
そしてどちらにも共通して言えるのが「病の事を他人に打ち明けられずに悩む」という姿でした。
「5%の~」では物語自体がアップテンポというか明るいタッチで描かれていたのに対し、今作では初恋と病というとてもデリケートな壁にぶつかったマリーやヴィクトールのもどかしさが何とも言えない切ない感じで描かれます。
きっと、こっちの方がリアルなんだろうなって思います。やっぱり子供って無邪気な分残酷な一面も持っているから、相手の心まで考えずに傷つけてしまうことも多いし、きっと告白することは相当勇気のいることだろうなって。経験のない分、それを受け入れてもらえるかもわからないし。

でも、ヴィクトールは立派でした。やり方は少々強引だったけど、懸命にマリーを支えようと出来る限りのことをしてあげました。

最後、紆余曲折を経て音楽学校の試験に何とか間に合いますが、彼女の視力はほぼ限界に達しています。
試験のステージに立つマリー。そして一生懸命演奏するマリーをみつめるお父さん、お母さん、そしてヴィクトール・・・。
しかし彼女にはもう彼らの表情すら見えていませんでした。でも最高の演奏をする彼女の顔には最高の笑顔が弾けます。

マリーのお父さんは何とか目の治療を受けさせるために音楽学校ではなく入院を最優先させようとしますが、彼女やお母さん、ヴィクトールの熱意に負け彼女を試験会場まで送り届けます。
きっと「わからずや!」って皆さん思うかもしれません。実際僕もそう思ってました。だけど、娘が全盲になるかもしれない。だけどまだそれを防ぐ方法が残っているって思ったら、僕はこのお父さんを責められるだろうか。

あとヴィクトールのお父さん。いいね、カッコいいですよ。亡くなったお母さんのことをいつまでも引きずる寂しい男みたいに描かれていましたが、ヴィクトールの変化を見て自分も変わらなきゃって気が付くところが「いいお父さん」でした。最後、ヴィクトールが起こした事件の際も、決してお父さんはヴィクトールを責めませんでした。
それが嬉しかった。心の中で「お父さん、ヴィクトールを褒めてやって」と願っていたから。

ちょっぴり甘酸っぱくて、それでいてそれぞれの心の成長を穏やかな映像で描いた今作は飛びぬけた傑作ではないかもしれませんが、心に残る一作でした。
dm10forever

dm10forever