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誰がための日々のGenaのレビュー・感想・評価

誰がための日々(2016年製作の映画)
3.9
※トラウマがありそうな人は要注意だと思います。※
Netflixで見つけた香港映画。
(なぜか登録されている作品名はMAD WORLD)香港の街、家々のミチミチした感じが思い起こされて思わず見てみることに。

思いの外辛い話で、香港の市井の市民の現状が描き出されていた。

主人公のトンは、母の介護を一人で担っている。懸命に介護するけれど、母の口からは毎日ひどい暴言ばかりが出てくる。タンではなく、勉学が優秀な弟の名前を呼び、お前なんかいらないとさえ言ってのける。

トンの婚約者からは老人ホームへ入れるように勧められ、仕事の状況も芳しく無く、追い詰められた彼はある日母を手にかけてしまう。
しかし送られたのは刑務所ではなく措置入院としての病院だった。

引受人として現れたのは、長い間家に寄り付かなかった父。6畳もないであろう小さな小さな共同住宅の自分の部屋に、息子を招き入れて、二人の生活が始まる。

香港の街自体の狭さ、狭小住宅にたくさんの人がむりやり住んでいるあの感じは、あの中での競争がいかに激しいかをそのまま現しているようにも見えた。

競争の坂道はとても急で、少しのミスであっという間に奈落に落ちてしまう。
彼は、何重もの重荷を背負っている。殺人者だという噂、精神障害、なかなか抜け出せない失業状態、独身だということ、、、

介護殺人に早いも遅いもないけど、恐らくまだ30代であろうトンは、熾烈な競争社会を生き延びるにはあまりにもハンデを付けられてしまった。

それはトンだけでなく、婚約者や父の足さえ引っ張ってしまう。

隣人の女性は、自分の息子に「素手でする仕事は儲からないからするな」と言って聞かせていた。

狭い街で、熾烈な競争で、急な坂道をできるだけ登っていくことが正解で、それ以外の選択もなく、道を間違えてしまったときの救済もない。
優しい者が犠牲になり、血も涙もない合理的な「賢い」者だけが生き残る。

この映画は香港の一部を切り取ったものだろうけど、こんな状況って日本にもリアルにある。

せめて自分と家族の心だけは、この競争に飲まれたくないってすごく思った。

翌日にケン・ローチの「家族を想うとき」を観たこともあって、いつかは海外に移住しようと思っていたけれど、事情はどこの国でもあまり変わらないのだと思った。
(生活を変えたかったら住む国じゃなくて、階級を変える努力をしなきゃいけないのかな。)

美術が素敵だった。小さな部屋は古びたもので溢れかえっていて、鈍い色彩の生活感が広がってる。
香港の家を内側から撮影した写真集を見かけたことがある。あれもう一度ちゃんと眺めたいな。

※冒頭にも書いたけど、テーマがテーマだけに、似た感じのことを経験した人だと見るのがとても辛いかもしれない。

追記:元婚約者の教会での恨み節がすごかった。全然許してないじゃん。
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