Inagaquilala

ジャコメッティ 最後の肖像のInagaquilalaのレビュー・感想・評価

3.7
ジャコメッティと言えば、あのやせ細った針金のような人間の彫刻で有名だが、実は画家としても数々の作品を残している。この作品は、そのジャコメッティが描いた最後の肖像画にまつわるエピソードを映画化したもので、絵画完成に至るまで、何度もジャコメッティが英語で四文字言葉を口にする場面が(ジャコメッティはイタリア系のイギリス人で、舞台はパリなので、実際にどういう言葉で言ったかは定かではないが)、観賞後、かなり記憶に刷り込まれている。ジャコメッティがその言葉を口にする度、肖像画の完成は遅れ、最初すぐに終わると思ってモデルを引き受けたアメリカ人作家は、何回もニューヨーク行きの航空機のチケットを変更することになる。

ある意味、狂気に満ちたジャコメッティの絵画に対する取り組みが、実際のドラマとしてよくわかる作品なのだが、完成するかと見られた絵画に、再び灰色の絵具を塗りつけて、最初から書き直す姿に、ジャコメッティ自身の自らの生に対する多少の苛立ちも感じた。肖像画の完成が遅れるなかで、ジャコメッティが見せる奇矯な行動は、そのまま彼の人生をも暗示している。娼婦がアトリエに乱入してきたり、大量の紙幣を妻の前でばらまいたり、描くことに行き詰るとモデルのアメリカ人青年を誘って墓地の散歩に出かけるなど、ほとんど描いている時間より、それ以外のときのほうが興味深い。

モデルとなったアメリカ人作家ジェームズ・ロードが著した本が原作となっていると聞くが、多少の誇張や創作も入っていると思うが、あの彫刻を世に送り出した芸術家の真情が覗ける作品となっている。監督は俳優としても活躍しているスタンリー・トゥッチ。このところ画家や建築家、デザイナーなどを取り上げた映像作品が数多く公開されているが、これは不思議なアニメーションで描いた「ゴッホ〜最後の手紙〜」と並び、強烈な印象が残る作品だ。
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