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ジャコメッティ 最後の肖像のもちのレビュー・感想・評価

4.0
地元のミニシアターで鑑賞。高校生の頃ジャコメッティの作品を見て衝撃を受け、その後パリのポンピドゥーセンターで実物を見て涙した思い出。思い入れのある作家なのでひいき目な感想です。

ジャコメッティは映像もかなり残っているので、色々参考にしやすかったとは思う…けど、それにしても、ジェフリーラッシュのジャコメッティぶりが恐ろしい!よくわからないけどジャコメッティよりもジャコメッティに見えるほど。自分の見て来たジャコメッティの映像が更新されるほどに。あの猫背やボソっとした振舞い、神経質な筆使い。最初のジェフリーのカットにゾっとした。え、本人!?ってなった。

いわゆる身勝手で神経質な作家を描く映画系には若かりし頃から晩年までを作品を交えて描くようなものが多い中、彫刻ではなく肖像画を描く数日間だけにフォーカスしたのも面白かった。もっと彫刻を作っている所を見せてよ!とはまったく思わなかったのが不思議。一瞬あるんだけど、なんだかそれで充分という気分になる。

伝記映画という感じがしないのが好き。あの美しく再現された色のないアトリエの中で、モデルと作家の神経質な時間を一緒に、映画を観ている人も神経質になりながら過ごす。頼むから上手く進んでくれ…と固唾を飲んで見守っている感覚。退屈した人もたくさん居るとは思うけど、私はこの描いては消し、描いては消しという映像をずっと観ていられるなと思うくらいだったので、肖像画は完成して欲しい様な欲しく無い様な…そしてあれは完成ではなかったんだろうな。

彼の最期を描かなかったのも良かった。あの肖像画もジャコメッティの人生も、完成されなかったような事を想像させてくれて、心地よい終わり方だった。芸術家の人生全てを描くのではなくて、一片をていねいに描く方が伝わることがある。

なぜこれをスタンリー・トゥッチが監督したんだろう?と思ったけど、両親が美術教師だったそうな。彼が監督した他の芸術家を題材にした映画を観てみたい。
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