えんさん

海の彼方のえんさんのレビュー・感想・評価

海の彼方(2016年製作の映画)
3.0
石垣島に住む88歳の玉木玉代は、1930年代、八重山農民募集政策により、日本統治時代の台湾から沖縄県石垣島に移住してきた家族のうちの1人。2015年春、念願だった台湾・埔里への帰郷を果たす。時代に翻弄された一家の3世代にわたる軌跡と家族愛、八重山台湾人の歴史を追う。日本統治時代に台湾から沖縄県石垣島に移住した一家に焦点を当てたドキュメンタリー。台湾が日本に統治されていた時代に沖縄に移り住んだ台湾移民をテーマにした黄インイク監督の長編ドキュメンタリーシリーズ『狂山之海(くるいやまのうみ)』の第1作。

近年になって、台湾映画というものも脚光を浴びるようになってきましたが、私たち日本人にとっての台湾とは中国とは違う、どこか身近な存在と感じるのはやはりその歴史を紐解いても感じます。でも、日中戦争前後に意気揚々と進出・開拓していった満州とは違い、やはり朝鮮半島や東南アジアの国々と同じように植民地化していった中で、台湾も日本の属国として下に見るような雰囲気が、戦後に日本に残った在日と呼ばれる人々の苦労を知ると、歴史の重みというのを感じざるを得ません。在日というと、朝鮮人ばかりではなく、沖縄に残った台湾の人々もいたというのは本作を観るまで知りませんでしたし、2世3世と時を経るに従い、やはり日本の文化に同化していき、祖先が台湾人であったというルーツも薄まってくる(特に、2世3世が台湾の言葉が分からなくなってきていることとか)というのは、辛いとは言わないまでも哀しい現実なのかなとなんとなく想像してしまいます。

本作はそうした在日として沖縄に残った台湾人の3世の方の、家族ドキュメンタリーとして作られています。僕なんかは家族の都合もあって、親戚付き合いなんかは今はほとんどないので分かりませんが、普段は日本人として生きているとしても、お正月など等々で親戚一同を介したときに、やはり台湾の文化が色濃く残っていて、その文化圏ならではのしきたりみたいなものをするときは祖先のルーツを知りたいというのは当然のことなのかなと思います。沖縄はただえさえ、戦後はアメリカの占領下となった時代もあっただけに、本土にはない沖縄人ならではのつながりを傍目からみると感じますが、その中で更に台湾人として生きてきたというところも更に異質な反骨魂みたいなものを各所から感じます。見た感じは単なる家族ドキュメンタリーではありますが、その家族の変遷に歴史をも感じるドキュメンタリー作だと思います。