ヨッシー

ファースト・マンのヨッシーのレビュー・感想・評価

ファースト・マン(2018年製作の映画)
4.2
『これ見てもまだ宇宙行きたい?』

人類史上初めて月面に降り立ったニール・アームストロングの活躍を描いた伝記映画。

監督は『セッション』『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル。
主演は『ラ・ラ・ランド』でもデイミアン・チャゼルとタッグを組んだライアン・ゴズリング。

言わずと知れた大ヒット作『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルの最新作ということで注目していた1作。
とは言え、今まで『セッション』『ラ・ラ・ランド』と音楽映画を続けて撮ってきたから今回の企画を聞いた時はちょっと意外だった。
しかも、アポロ計画の話なんて、詳しくは知らないても誰でも知ってるような話を今更やるのはどうなんだ?という疑問もあった。

実際ストーリーにはそんなに面白味はないし、普通の会話シーンなんかはちょっと退屈。
ただ、演出面では非常に面白い作品で、普通の伝記映画とはある意味逆を行くような作品になっている。

本作によく似た作品だと同じ宇宙映画の『ゼロ・グラビティ』やクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』が近い。
どちらも宇宙空間に投げ出される恐怖や戦場に放り込まれる恐怖を体感できるアトラクション的な映画で、今回の『ファースト・マン』もそういった作品で、主役のニール・アームストロングになって宇宙飛行士の恐怖を体験できる。

なんと言っても怖いのはニールが飛行してる時の圧倒的閉鎖感。
狭く窮屈そうなコックピット、狭い視界、身動きが取りづらそうなパイロットスーツ、機体の激しい揺れ、機械が軋む音、こういった演出を常にニールの視点で見せてくる。視点も常にニールや彼の視点のドアップが多く、それによって自分がニールになったような体験ができる。

それに、ほんの小さなミスが命取りになる宇宙飛行士という仕事の危険性も強く描かれていて、職業の大変さ以上に怖さ、危険さを強く感じるような作りになっている。

ストーリーも史上初の月面着陸という偉業を成し遂げた英雄譚というものではなく、あくまでニール・アームストロングという1人の人間のドラマとして焦点を絞っていて、彼の命懸けの仕事をしている事での家族とのすれ違いが主なドラマになっている。

その分ニールとその家族以外の人物の描写はほぼ無いに等しく、壮大な話とは裏腹に狭い世界の話に感じる。
これは『ラ・ラ・ランド』もそうで、アレもほぼ主演の2人だけの物語でもあったから、おそらくはデイミアン・チャゼル監督の作家性なのだろう。
この辺で人によっては好みが分かれる作品かもしれない。

正直なところ、本作は人類史上初の偉業を成し遂げたという達成感を感じるような明るい作品ではなく、むしろ逆のかなり暗い作品ではある。
ただ、ニール・アームストロングの身になって宇宙飛行士という仕事の大変さ、恐怖を体験できる新しいアトラクションムービーとしては最高に満足できる1本だった。上映時間が長いからすごく疲れる作品ではあるが、これは間違いなく劇場で見なければその真価は分からない作品なので是非劇場で確かめてほしい。

過去作の『セッション』『ラ・ラ・ランド』とは一転して全く違う映画を撮ったデイミアン・チャゼルだが、今後はどんな映画を撮るのか非常に楽しみになった1本だった。
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