ケンシューイ

ファースト・マンのケンシューイのレビュー・感想・評価

ファースト・マン(2018年製作の映画)
3.9
アポロ11号

人類が月に行くということ
アメリカが月に行くということ
ニール・アームストロングという
一人の人間が月に行くということ

それぞれの立場においての月という場所が何であったのか、その意味を表してるのがこの映画の素晴らしさ。一般的に知られているこの史実と、その裏側でまだまだ知られてはいなかったアームストロング船長の家族の物語や命がけの訓練・実験の様子などからは、このミッションに対して多くの犠牲が払われてきたことの強いメッセージが込められてる。

音響編集賞ノミネート
録音賞ノミネート

原作があり、監督は脚本を書かず、スピルバーグが製作総指揮を務めた。チャゼル監督にとっては、これまでの作家性に溢れる作品というよりは、ハリウッド・システムの中で職業監督に徹した作品とも言える。その演出で最も魅力的だったのは音。お得意のジャズ音楽などは必要最小限に抑えられて、そのかわりに飛行シーンなどではけたたましい轟音が鳴り響き、その後に続く無音という音との組み合わせによって、呼吸するのを忘れて窒息しそうになった。この張り詰めた緊張感でもって、主人公と同じ体験をしているかのような臨場感があった。『ボヘミアン・ラプソディ』という強敵がいた為、受賞はならなかったものの、アカデミー賞のこの部門でノミネートされたのには納得ができた。

16mm、35mm、IMAX65mmカメラ
視覚効果賞 受賞!

それともう一つはカメラの使い分けが良かった。人間ドラマを語るパートでは粒子が荒く、ざらついた映像によってこの60年代当時の雰囲気を醸し出し、月面着陸を果たすシーンでは最高品質のカメラが使用されて、一気にその美しい世界が視界に広がり、圧倒させられた。
それと、CGを使わないアナログな撮影方法も良かった。このロケットは模型を作ったんだろなー、この月面ってセットだよなーって手作りな感じ、でもダサくない。ノーランやキューブリックを観てるみたいに。当時の実際の映像なんかも挟み込まれていたりリアリティが追求されてる点は、デジタルに飽き飽きしてきたところを越えた新しさがあり、むしろその方が最先端なんだなって思えた。NASAが協力してるだけのことはある。初っ端で、「字幕監修:毛利衛」って出てきた時点で、あーこれ本物なんだって思えたから。

Lunar Rapsody

劇中で使用されたこの曲も実際にこの夫婦が聞いていたものらしいから、人間ドラマとしてももの凄いこだわりを感じる。ただ、惜しむらくは、この映画の肝であるニール・アームストロングの物語について。彼が成し遂げた人類の偉業には、個人的にも意味があったというストーリー構成は良いと思うのだけど、ちょっと盛り上がりに欠けた。エンターテイメントとしては微妙な薄味の感動に終わってしまったのが残念。