アニエス・ヴァルダ監督のヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞作。
冷え込みの厳しいとある冬の朝、南フランスの片田舎にある畑の水路で、18歳の女性の凍死体が発見される。
「自由を選べば孤独になる。」
モナに何が起こったか。彼女が孤独に野垂れ死ぬまでの数週間の足取りが、彼女の死を知らない路上で出会った人々のインタビュー映像と回想劇によって明かされていく。
本作の肝は、"楽して生きたい"の一点張りである、宿なし銭なし信仰なし法なしの放浪人モナが、男性からは利用されるか、説教されるかなのに対し、女性からはその"自由"な生き方にある種の憧れの眼差しが向けられ、気遣われることが多かったという点にあると思う。
自分としては、これだけ自堕落かつ他人に無礼ならば野垂れ死んでも自業自得だろうという想いが強く、彼女は社会や共同体に殺されたなどとは到底思えなかったのだが、彼女が選択した生き方の是非をジャッジすることは全く持って本質的ではないだろう。監督はモナの生き様を否定も肯定もせず、ドキュメンタリータッチで淡々と映し出しているだけである。そこから感じ取れることは、男性社会で生きる女性たちの生き辛さ、息苦しさ、孤独に他ならなかった。
アニエス・ヴァルダ監督の最高傑作とも言われている本作だが、個人的には、主人公の心情に共感できたという点で、同じテーマを持つ『5時から7時までのクレオ』の方が好み。
各エピソードに、右から左へと歩いていく主人公モナを追うトラッキングショットがあった。温もりが感じられない殺風景の数々と共に、モナの顔から生気が失われていく様が見て取れる。特に印象的だったのは、寒々しい冬の枯野をゆっくりと横断し、凍死体発見現場へと行き着くオープニングショット。『サンセット大通り』を想わせる導入シーンだった。
喜びや温もりを徹底的に排除した寒く冷たく乾いた世界観。ヴァイオリンの音色が空気を切り裂くかのようにキンキン鳴り響く、物哀しいテーマ曲。
「独りだと寂しい。二人でも満たされないわ。ポロに抱かれても酒場でも私は孤独よ。」
「私も若ければ亭主を捨てて旅に出る。」
「あの娘か。目的がなく、仕事をやる気もない。あれは放浪じゃない、怠け者さ。反体制のように見えて実は逃げているだけだ。逃避だよ。」
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