いののん

シドニー・ホールの失踪のいののんのレビュー・感想・評価

シドニー・ホールの失踪(2017年製作の映画)
4.2
優れた小説は危険を孕んでいる
優れた小説は人の心の奥底に触れる。隠されていた暴力をむき出しにする。受け取った読者によっては、直接的な表層的な暴力へと転換させてしまうかもしれない(実際にそういった事件もあった)。優れた小説は毒薬と同じ。人を破滅に追いやる危険を孕んでいる。


しかし真に優れた小説は、そこに留まらない。更に心の奥底へと進み、読者の心のいちばん深いところに触れる。怒りや戸惑いや憎しみや不安、存在することをまるごと。深淵へ。読者の、誰にも(自分にも)見せずにいた心の闇に、小説は触れていく。触れられたことによって魂は震える。さわってもらったことで、魂の奥底の何処かが癒やされる。ゆきてかえりし物語。物語から帰ってきたときに見える景色は、今までとは全く違っている。


この映画のキモは、小説家シドニー・ホールの描く小説が、きわめて優れた小説なのだということを、観客にリアルに感じさせたことにある、と私は思う。そんじょそこらの小説とは違う、きわめて優れた小説。そのことをエピソードを積み重ねて映像でみせる。とても説得力がある。観客がそのことを信じていられることで、この映画は成り立っている。慎重に繊細に大切に描いているところが、とても好きだ。優れた小説論にもなっていると思う。映画が、小説の持つ力を信じている。


高校生で小説家となり、そこから30歳まで。ローガン・ラーマン君がこの繊細で誠実な役を見事に演じる。エル・ファニングとの相性も抜群!エレベーターとの相性も見逃せない!


通りは渡るためにある
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