茶一郎

勝手にふるえてろの茶一郎のレビュー・感想・評価

勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)
4.1
 劇場が暗くなると、どこからか聞こえてくるのは松岡茉優のため息。劇中、繰り広げられるのは、松岡茉優扮する中学校の頃の同級生に未だに恋する冴えないOLヨシカの独り言会話劇。そして、映画世界はこの松岡茉優扮するヨシカの脳内から滲み出た想像の世界を直接的に映し出します。
 この何たるや凄まじい「松岡茉優・オン・ステージ」な一本、現代日本リアル版『アメリ』な一本、いや松岡茉優版『アメリ』な一本が今作『勝手にふるえてろ』なのです。
 『桐島部活やめるってよ』にて最恐最悪の義務的キスシーンを見せ戦慄のデビュー、最近では実写版『ちはやふる』のラスボスを見事に演じ切った松岡茉優さんがコメディエンヌとしての才能を遺憾無く発揮するというこの『勝手にふるえてろ』は、『美しい星』、『帝一の國』、『全員死刑』と、優秀なコメディ邦画が豊富だった2017年を見事に締めくくる快作コメディだと思いました。

 その自分勝手で、他者を常に上から目線で見下す性格の悪さから周りに友達がおらず結果的に、他者という緩衝材無しに「自分」と「世界」とが直接、対峙している系の人物が主人公の物語。『ウェルカム・ドールハウス』、『ゴーストワールド』、『マーガレット』、近作では『スウィート17モンスター』を筆頭とする所謂、「イタい系主人公モノ」という物があります。今作『勝手にふるえてろ』もこの系譜の作品であり、主人公の妄想・想像が直接、映画世界の描写に反映される様子は『アメリ』を想起させます。
 「イタい系主人公モノ」は主人公のイタさの反面、どこか憎めないキャラクター造形で、観客の興味を惹きつけますが、今作では性格の悪さの裏側に愛嬌がある主人公ヨシカを松岡茉優さんが好演してみせます。脳内ダダ漏れな独り言劇はもちろん、そのアンモナイトの化石を買うほど絶滅した生物好きという奇妙な設定が可愛い。実にこの「もうすでに終わっているモノが好き」という設定は、終わったはずの中学生の頃の同級生を10年以上かけて愛している恋愛の様子とも重ねて語られました。
 
 監督の大九明子氏の繊細な音使い演出や、女性を美しく撮る(OLの雑魚寝をあれほど美しく撮るとは!)手腕も印象的ですが、兎にも角にも、松岡茉優の演技力を全面押し出し、それが成功した時点でこの『勝手にふるえてろ』はかけがえのない作品となったように思います。
 また全編がポップな『アメリ』とは異なり、今作は主人公の行動による結果と責任を重く主人公に負わせることで、主人公ヨシカの気付きと成長を誠実に描きました。彼女の温かかった空想の世界から一変して、ヨシカに冷たい現実を気付かせる。彼女を襲う突然の孤独、その孤独を緩和するのは紛れもなく現実に存在する他者の存在であるというラストも納得です。何とも愛しい作品でした。
茶一郎

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