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勝手にふるえてろのtakatoのレビュー・感想・評価

勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)
4.3
2017年ベスト10入り。大スケールの映画なんて今の邦画にはとても無理。しかし、こういうこじんまりとしていながらも、切実に心に響く作品なら充分勝負できる。

 無力な傍観者

 ただただ、自分に心地よい事だけを求める傍観者

 しかし、現実や世界には痛みや苦しみに満ちている。故に、どこにも心から参加できない。

 自分の小さな好き嫌いの世界に、損得の世界に閉じこもって世界を外から眺めている傍観者。

 自分を完全に承認して、傷つけない存在。そんなものは自分しかいない。故に、自分に閉じこもる。鏡合わせの自分。

 自分以外の事は他人事。他人事はどうでもいいこと。故に、世界はどうでもいいもの。

 住みやすい小さな穴倉。しかし、空気が薄くなる。そのせせこましさが、狭苦しさが、倦怠が限界を告げる。でも、どことも繋がれない。どこにも行けない。

 結局、現実以外にはどこにも世界なんてない。みっともなさも痛みもひっくるめて、他人で満ちている現実に参加した時、初めて地平線が開かれる。そして、世界もあなたに開かれる。

 現代人なら多かれ少なかれ痛切に響く物語。痛みが怖くて、繋がりたいのに繋がれない。だから、自分だけの自分勝手な世界に退行してしまう。しかし、それでは孤独は埋まらない。痛みに傷つけられながらも、世界や他人とぶつかり合わない限り救いはないことに気づくまでの物語。

 理想と現実を象徴する二人の彼氏。ただ、遠くから眺めていただけの主人公の悲しさ。ありふれた景色を瑞々しく捉える映像の美しさなど魅力的な要素が絡み合って忘れ難い一本に仕上がっている。

 ただ、主演の松岡さんが美人過ぎるのがちょっとひっかかった。こんなに美人がイケてない、痛々しい系の女の人をやるのはちょっと説得力に欠けるところがあるかなぁ~。主人公が理想や空想に囚われてるのを辞める決断をしたところで、鏡に映ってる自分を砕くと、松岡さんじゃなくてもっとリアル感がある真の主人公の姿になる、みたいな演出があったらより好きになったんだけどねぇ~。あと、現実を象徴しているような「ニ」のキャラが、ちょっと漫画っぽ過ぎたのは少し惜しかったか。

 正直弱いところもある。ただ、中盤くらいなんだけど私的クライマックスだった松岡さんが高らかに歌い上げるところは、哀しくも熱がある最高の場面で、こういう凄いシーンを見せてくれただけでも評価したくなっちゃう。

 


 
 
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