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勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)
3.7
 冒頭のハンバーガー・ショップで自分語りを始める24歳のOLヨシカ(松岡茉優)とショップ店員(趣里)のクローズ・アップには最初から絶望しかけたが、30分を超えたあたりから徐々に映画の楽しみ方、心の置き方が解りかけて登場人物たちの気持ちに寄り添うことが出来た。24歳のOLヨシカは片思いの崇高な記憶を現実のこととして昇華するも、周りの人間たちは理想と現実の狭間にはいない。特に隣の席の月島来留美(石橋杏奈)は彼女の親友であり戦友とも呼ぶべき間柄ながら、ヨシカの現状を成熟し始めた同世代の目線で据える。10年もの間、中学時代の同級生イチ(北村匠海)に片思いを続ける女の病巣はそう簡単には過酷な現実に戻れない。今作に似た手触りの物語として、真っ先にクレイグ・ガレスピーの『ラースと、その彼女』が挙げられる。アメリカの田舎町に住む26歳のラースは、心優しく町の皆に好かれている青年だが、インターネットを通じて知り合った元宣教師でブラジルとデンマークのハーフである女性ビアンカは彼の妄想を具現化したようなラブドールである。今作でも24歳のOLヨシカの想いを具現化したような同級生イチは生身の人間であるが、同時にヨシカの妄想を補完する人物として亡霊のように登場する。放課後の黒板の場面でも同窓会の場面でも、彼の姿は背中越しから据えられる。

 イチは実態の極めて薄い幽霊として登場し、対する二(渡辺大知)はとことん彼女の現実社会に寄り添う。彼女の部屋に置かれた固定カメラはヨシカが寝る前までのリアルな20代の生態を据える。オカリナの自由な旋律が聞こえる中、アンモナイトの化石に魅了されたヨシカは象徴のようなアイコンとして奉るが、彼女の進む現実は彼女のメルヘンな心の在り様にはまったく同期しない。彼女の心は「天然王子」をスケッチした厨二の頃からまったく進歩していない。それどころか極めてシニカルな現実を生きる二の手癖に習い、スクール・カーストの上位だったマドンナを装い、彼女が開催した同窓会で亡霊の様なイチと出会う時、ヨシカはしばしの優越感に浸る。徹底して女性上位の物語に寄り添う男の影は一貫して儚く脆い。イチも二も決してヨシカのプライベートに土足で侵入することはない上、彼女の病巣の核心に触れることもない。中盤以降、亡霊に名前で呼ばれなかったあたりから、彼女vs世界の有りようが反転する瞬間がある。淡々とした日常が突如瓦解するゾクゾクする様な名場面だが、屋上でヨシカが二に言い放った言葉が強烈に胸に響く。人間それぞれの心のパレットは少しずつ違っていて、目に見える世界にも大きな隔たりがある。身勝手な女性の身勝手過ぎる行動の数々を追った映画としては『スウィート17モンスター』も似た様な映画ではあるが、こちらの方は7歳も年上なだけに深刻さも違う。ある意味では現代の日本人女性の生きづらさを象徴する1本である。