タキ

勝手にふるえてろのタキのネタバレレビュー・内容・結末

勝手にふるえてろ(2017年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

かるーく見始めたら、まーおもしろくて。
最近見た邦画の中では出色の出来。
松岡茉優はガラかめの北島マヤ級の天才だと思ってるんだけどその天才をまるごと堪能できる作品。ヨシカは中学時代好きだった一宮(イチ)を10年間思い続け脳内恋愛を楽しんでいるようないわゆるオタク気質の子で学生時代はスクールカーストの最底辺の人間という設定。これは松岡茉優が数年前に演じた「桐島、部活やめるってよ」の沙奈(スクールカーストの上位の人間と付き合うことで周囲を見下す)とは真逆の人間で、この二つの役の振れ幅を見るだけでその凄さがわかるので桐島もぜひ見てほしい。ヨシカの起こしたアパートのボヤ騒ぎのあと生きているうちに会いたいと思いが募りあれこれ画策して憧れのイチと10年ぶりに再開することに成功するのだが、彼がヨシカとのエピソードを覚えている一方で名前を覚えてない事実にブチ当たり衝撃を受けてしまうというくだりがあって、丹念に作り上げてきた自分の世界に現実の風穴が空いた瞬間に一気に世界が色褪せてしまう感じがリアルだった。ほかの同級生にも名前を覚えられておらずあからさまに下に見られてるタワマンのシーンからウェイトレスや駅員や編み物おばさんや釣りおじさん、コンビニ店員と仲よさげに話していたシーンはすべて彼女の妄想だったこともわかり妄想世界の崩壊と異常巻きの日常に打ちひしがれ自宅のアパートの狭いタタキにうずくまって泣くシーンは辛すぎて胸が痛かった。突然ミュージカル調になるのだが前半のコメディパートとうまく繋がっており笑えるほど悲しい胸の内がよく表現されていたと思う。
理想と現実といえばよくある話だが理想の形が一般人とオタクでは明らかに違っているので、そのつまづきが意外で興味を引くのだ。ヨシカは「わからないことだらけ」と二は言ったがこれがだいたいの一般人の感想で、まさにオタクの発想とブッ飛んだ行動力に勝手にふるえてるしかない。
自分は透明なのだと思い知ったヨシカは現実と折り合う模索をしてはみるのだがうまく馴れ合うことができなかった。自暴自棄になって会社を辞めると言ったけれど上司のフレディはせっかく就職したのにもったいない有給扱いにしてやるから休めと言ってくれるし二も来留美も歩み寄ってきてくれる。この救いの手をバシバシと振り払ってゆくヨシカの拗らせっぷりが見事。二を自宅に呼びつけて言った理由がやってることはヒドイんだけど彼女なりにちゃんとスジが通っていて年季の入ったオタクの説得力がある。

二(渡辺大知)の勘違いしたヨシカへのアプローチが登場シーンからかなりキモい。これはヨシカからみた二であるのでキモいのは仕方ない。それがフッとヨシカ目線でかっこよく見える瞬間があって、その塩梅が絶妙だった。ズルズルとなんとなく付き合ってしまうのすごくわかる。彼が出てるシーンで1番すきだったのは飲み会で経理の女の子はきちんとしてるので奥さんにするといい発言に「ウルセー!」って同僚の女性が言ったシーン。マジでスッキリした。
月島来留美(石橋杏奈)はスクールカーストの上位グループにいそうな感じだけど悪意に満ちたヨシカの同級生とはまったくカラーが違って社会人になっての友人って感じがすごくリアルだった。こういうひとよくいる。
ヨシカの孤独にちょっと強引に分け入ってくれたひとはいいが無神経な二(霧島)と自分の世界に空いた風穴を許してなお確固たるアイデンティティを保ち続けるヨシカ。ラスト、2人がいた場所がヨシカが泣いていた場所だったんだけどヨシカが世間に合わせるようにアパートからでていくのではなく霧島がせっまいタタキに入ってくるパターンで面白かった。オタクの奇矯なところを笑いにすることが目的では到達しえないシーンだった。
あととなりのオカリナさんがめちゃ可愛い。切腹最中には死ぬほど笑った。
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