背骨

月と雷の背骨のレビュー・感想・評価

月と雷(2017年製作の映画)
4.2
愛おしくなる映画に出会ってしまったなぁ。この映画は今の日本に必要とされ、作られた作品じゃないかと思えた。

それまでのなにか虚無感を感じながら過ごしていた一人きりの時間。そのなにかを埋めようと実の母親を探しあて、会ってみてもなにかピンと来ない。その空洞を埋めてくれるのは血の繋がりじゃなかった。
…これが自分の人生なんだ。と思い込んでいたものを埋めてくれたのは、世間からみればちょっと風変わりでだらしない生活をしていた、あのたった半年間の暮らしの中にあった。

主要登場人物は「父親を亡くして1人スーパーのレジ打ちをしながら暮らしてる主人公」と「主人公と半年間だけ一緒に暮らした父の愛人とその息子」「出て行った本当の母親が再婚先で産んだ半分血が繋がった妹」紆余曲折あった末、1つ屋根の下で暮らすようになる4人。

この映画に出てくる人々の関係は家族と言われるものに近い集合体ではあるけど、血が繋がっている人もいれば、他人もいる。
この映画の中では血が繋がっているかどうかはこの際どうでもよくて、欠落した者同士がお互いを補完しあって生きていく姿が描かれている。
いわゆる普通を好む人ばかりじゃないし、普通にしたくても出来ない人もいる。そんな普通ってやつがちょっと苦手で、器用に振る舞うことが出来ない人たちの物語。

世間から見た普通と言われるものから外れたものを全く許容せず、バッシングの嵐が吹き荒れる今の日本。
この世界にはいろんな人がいるし、いていいんだと。幸せの形は生きてる人の数だけあって、その幸せの形が近い人たちが寄り添って生きていけばいいんじゃないですか?ってこの映画は言ってるような気がした。

またシナリオだけでなく演出も素晴らしい。安藤尋監督、大変申し訳ないけど作品始めて拝見しました。この監督凄いね。人の動き、仕草が自然でとても可愛らしい。
よく映画やドラマの中である「はい、向き合って、見つめ合ってキスしますよー」っとか、「その流れから徐々にSEXにいってぇ〜」みたいな記号的な演出が全くない。
「話しているときについ自然と相手の腕をさすってしまう」とか「たまらず相手のほっぺたをペロっとしちゃう」とか「背中にペタっとくっついて寝る」とか、それこそここ数年で最高のSEXシーンだと思った「添い寝からSEXへの移行の仕方」とかね。ホント素敵なシーンが溢れてました。

あとキャスト陣も良かった。中でも草刈民代の「存在感」は流石だった。後半のあのシーンね、最高でしたよ。
あと勝手に日本若手俳優No. 1と思っている高良健吾の「観客をスクリーンに惹きつける力」と「物語を推進させる力」はあらためて凄いと感じたなぁ。

最後ちょっと疑問があるとすれば、妹のことがよくわからなかったかな。考えていること、人物像がよく見えないんでなんでそこにいるんだろう。と思ってしまった。
あとラストシーン、本当の最後…あそこで言わんとしていることが自分の中で上手く解釈しきれてない。未だに。そんなとこです。

いずれにせよ、おススメ出来る映画です🎬
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