じぇれ

心が叫びたがってるんだ。のじぇれのレビュー・感想・評価

心が叫びたがってるんだ。(2017年製作の映画)
3.2
Filmarks試写会にて鑑賞。オリジナル版、鑑賞済み。

無邪気な一言で両親の離婚を引き起こした少女は、自らに呪いをかけ、言葉を失う。
しかし、高校生になり、心優しい青年と触れ合ったことから、彼女は再生へと歩み始めるのだが...

細部の調整はあるが、脚本はほぼアニメ通り。修正箇所も、1箇所を除いて、実写化には不可欠な修正で、好印象。(1箇所については後述)

さて、そこで問題となるのが、水瀬いのりさんが演じた子供っぽい、いかにもアニメ特有のヒロインを、いかに生身の女子高生に変換するか。
この難題に対して、熊澤監督&芳根京子さんは、驚きのアプローチを見せる。
スタートはリアルな演技に徹し、全く違う印象を与える。アニメの成瀬順のファンは、ここで心が離れてしまうかもしれない。しかし、恐れずに生身の女の子として存在させている。
そして、心を開いてきた中盤から、芳根さんは無邪気さをアクセントとして入れ始める。結果、クライマックスの頃には、アニメの成瀬順が実体化したかのような錯覚を起こす。
芳根京子さんの演技を意識して観るのは初めてだったが、実に見応えのある重層的な演技を見せてくれたと感心。

本作は”芳根無双”といってもよいぐらい、”女優・芳根京子”の魅力が詰まっている。
失礼ながら、地味な顔立ちの方だと思っていたが、大物女優の誕生に立ち会った気分を味わった。
芳根京子さんを観るだけで、おつりがきますよ。

一方、W主演の中島健人さんは、若干役を掴み損ねたまま終わってしまった印象。
いい男すぎるんですよ。自分がかっこいいと自覚しているのが見えちゃって、クラスでは地味な存在の坂上拓実になりきれていない。最初から王子様なんです。「菜月とは釣り合わないよね」と同級生女子から相手にされていない感じは、もう少し出してほしかった。

ここで、冒頭の「納得がいかない修正箇所」の話題に。
ある2人が合唱するのがクライマックスとなるのですが、どうしてヒロインの相手役を替えてしまったのだろう?
成瀬順の2つの心を歌い上げるパートナーがあの人では、物語が成立しませんよ。
アニメをいじるなということではなく、人を変えるのならば、もっと根本から脚本を変えないといけないんです。
ある俳優の見せ場を増やそうと、脚本の骨格をそのままで配役を入れ替えただけでは、土台が壊れてしまいます。
脚本を舐めるな!
その後のアップシーンの長さの不公平さも含め、「あぁ、これはJ事務所への忖度なんだな」と嫌な邪推に至って終幕。

色々と制約がある中、熊澤監督は、そこに抵抗できずにまとめざるを得なかったんだろうなぁ。
全体的には健闘していただけに、大人の事情に作品を壊されたことが残念でならない。

☆は、”芳根無双”に感銘を受けたので、甘く採点。

※とはいえ、試写会場では、女の子たちが終始号泣していたことを、付け加えておきます。私のような偏屈なおじさんではなく、ピュアな方にはオススメです。
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