みゆ

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書のみゆのレビュー・感想・評価

5.0
2018.04.18(62)
劇場・字幕


初期以外のスピルバーグ作品は何故だかピンとこないものが多かったので、今作は見る予定ではなかった。たまたまいつも行く劇場の上映予定時間と私の行ける時間が重なったので、ならせっかくだからと劇場鑑賞することに。

うわーん!スピルバーグごめんよー!私ね、先入観でメリルとトム・ハンクスの完璧な演技と、銀座のお寿司屋さんで最高の大トロをどやさ!と出されるような感じの、みんな好きでしょう?みんなが見たいのこれでしょう?みたいな映画だと思っていたら180度違った。ホントごめんなさい。

女性が「女性に生まれたというただそれだけで」もやっとしたり窮屈だったり理不尽なことを求められたり、そういう息苦しさを全部抱きしめた上で笑顔で色んなこと(表のことも裏のことも)こなしていることを、繊細に丁寧に労ってくれる映画だった。

新聞の理念などについてももちろん素晴らしく描かれているが、派手な特ダネだけで終わらないのが実に良かった。新聞の記事は担当記者だけの努力で出来上がるものではない。刷り上がりや配達や販売まで、実に様々な人の手を介して世に放たれていく。それらが女性が社会で生きていく上での過酷さと極々自然にひとつのこととして溶け合い物語られていく。あらゆる立場の人にきちんと敬意と配慮をした上で、不遜さのかけらもなくこの題材を取り扱っていたことに心から感動した。

強い女性が力強くリーダーシップを発揮していくような話かと思っていたが、本当に全く真逆で、男性優位の社会の中で出しゃばる女はほとんど出てこない。もちろん時代的に、バリバリ仕事をこなす女性が出てきた時期でもあるので、ローヒールの靴を履きで強気で仕事をこなすかっこいい女性も登場する。だが今作で光っていたのは控えめな女たちだ。メリルもそうだし、そのメリルの抱える責任の大きさを本人ではなくトム・ハンクス演じるベンの妻に語らせるのが大変良かった。泣かされた。このシークエンスだけで感極まってしまい、その後は少し集中力を欠いてしまったほどだ。

女性の権利を声高に叫ぶのでは無しに、女性への尊敬を作品の隅々まで行き渡らせ表現してある。そこに感銘を受けたのだ。

ダンガルといいペンタゴン・ペーパーズといい、普段滅多に泣かない私の涙腺のツボを寸分違わず突いてくる作品に立て続けに出会えて、今年はもうすっかり満足。
みゆ

みゆ