きょんちゃみ

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書のきょんちゃみのレビュー・感想・評価

5.0
『ペンタゴンペーパーズ』と『大統領の陰謀』と『シークレットマン』と『フロストニクソン』は、この順番でひと続きの連続ドラマである。これらの4つの映画群は全てがお互いを補い合って連携している。たとえば、『ペンタゴンペーパーズ』には『大統領の陰謀』とまったく同じシーンがある。

以下では、私なりに情報を整理してみる。

『ペンタゴンペーパーズ』のキャサリン・グラハム(=メリル・ストリープ)はワシントンポストの女社長(夫は自殺してる)なんだが、上流階級出身なので、ロバート・マクナマラ長官と友達だったりして、苦悩する。

そもそも、ペンタゴンペーパーズとは1971年にニューヨークタイムズによって一般にリークされた、ペンタゴン(=国防総省)がランド研究所というシンクタンクにベトナム戦争のシミュレーションをさせた研究結果のことで、アメリカはこのままだと、ベトナム戦争に勝てっこないということが書いてあった文書なのだ。

それなのに1964年からジョンソン大統領とロバート・マクマナラ長官はベトナムから攻撃されたという事件をでっち上げて、ベトナムを攻撃した。

つまり、1965年の段階でマクナマラ長官は勝てないと知っていたのに、戦争をしかけ、58万人のアメリカ人と100万人のベトナム人が死んだことになる。それで、シンクタンクの研究員のダニエル・エルスバーグが当該の報告書類を盗み出した。映画の『ペンタゴンペーパーズ』の中では、最初ボブ・コウマーという名前で出てきた男が、「ダン」と呼ばれている。

結局、『大統領の陰謀』に出てくる、FBI内部の情報提供者の「ディープスロート」は誰だったのか。2005年に分かったことだが、FBIの副長官のマーク・フェルトであった。

FBIは当時、大統領からも独立した権力をもつ組織であっ(てしまってい)た。というのも、1972年にFBIのエドガー・フーヴァー長官が亡くなるまでは、FBIは政治家やキング牧師を盗聴して、それによって得たスキャンダルを使って彼らを脅していたのである。マーク・フェルトは副長官から長官になれると思い込んで我慢していたのだが、ニクソン大統領が差し向けた新しい長官がやってくるということを知り、それで激昂して情報を一般にリークし出したのである。これが「ディープスロート」である。

当時のアメリカには主要な全国紙はだいたい4つしかない。①ワシントンポストと②ニューヨークタイムズと③ウォールストリートジャーナルと④USAトゥデイである。そして、これらの全国紙はたまに連携して闘うことがある。

ウォーターゲート事件(1972年)の前年に起きた、ペンタゴンペーパーズ事件(1971年)では、ベトナム戦争に関する機密書類をニューヨークタイムズがすっぱ抜いたわけだが、ニクソンがスパイ防止法を武器に逆に訴えるという展開になる。そのとき、ニューヨークタイムズが大統領命令で新聞を出版できないときに、ワシントンポストはそれを引き継いで報道機関の連携プレイをやってのけた。この経緯が、映画『ペンタゴンペーパーズ』に描かれたものなのだ。

ところで、ニクソン大統領といえば、名作『ナイスガイズ』という映画に出てくる、2つのパースペクティブについてのジョークの中で、主人公ヒーリーにネタにされていた人であり、オランドがプールに落ちたら、プールの水の中でニクソンに出会うシーンも記憶に新しい。このニクソン大統領は、1974年にやっと辞任に追い込まれ、最終的に『フロスト・ニクソン』という映画の中で、司会者に追い詰められることになるわけだ。「ニクソン大統領をいかにして追い詰めるか」という観点から、一連の映画を続けてみると楽しいのである。

1970年代当時、ワシントンポストはワシントンのローカル紙程度の大きさだった。しかも経営危機だった。新聞社としての公共性か、会社としての商業性か、そのどちらを優先すべきかで揺れるのが女社長のキャサリンだ。

『大統領の陰謀』は1976年の映画である。ウォーターゲート事件は1972年。ニクソンの辞任は1974年。この2人の記者が書いた本が『大統領の陰謀』の原作で、その映画化権をロバート・レッドフォードが買い取ったことで、『大統領の陰謀』は作られたのである。

ちなみに、「ウォーターゲート」というのは6つのビルの複合施設で、民主党の本部がある場所の名前である。この複合施設は『フォレスト・ガンプ』にも出てきている。このワシントンポストの記者が、ボブ・ウッドワード(=ロバート・レットフォード)とカール・バーンスタイン(=ダスティン・ホフマン)で、この二人がニクソン大統領の陰謀を暴いたのである。

そのとき、ディープスロート(=映画『シークレットマン』においてはリーアム・ニーソンが演じている)という情報提供者がいた。これが先ほどから言及しているFBI副長官のマーク・フェルトなのである。当時人気絶頂のニクソン大統領が、再選狙いの陰謀をたくらんでいることが彼には分かっていたのである。

『大統領の陰謀』の中の良いシーンは、国会図書館で貸し出しカードの束をみんなで調べるシーンの上からの撮影である。このシーンの撮影はゴードン・ウィリスである。ゴードン・ウィリスは、ウディ・アレンの仕事仲間でもあり、『ゴットファーザー』の撮影した名撮影監督でもある。『大統領の陰謀』では、ゴードン・ウィリスは二焦点レンズを使ったレッドフォードの6分間の長回しを担当している。2つの地点のどちらともにピントがあっていることに注目である。しかも、レッドフォードの方にズームして行って途中から、一焦点になっているのに、その切れ目が見えないのだ。

ゴードン・ウィリスは、照明を極端に少なくするのに、ディテールが全部見えるように撮る。これは、彼の得意技である。『ゴットファーザー』の冒頭においてもそうである。ディープスロートの顔が、あんなに暗いのに、かすかに見えるのは、ゴードン・ウィリスの照明技術のたまものである。ちなみに、ディープスロートを演じたハル・ホルブルックは『カプリコーン1』ではケラウェイ博士を演じている。『大統領の陰謀』の美術監督はジョージ・C・ジェンキンスで、この人の遠近法を用いたオフィス撮影も素晴らしい。

『大統領の陰謀』において、ワシントンポストが全面協力した編集室のシーンはバーバンクのスタジオのセットである。原題の『オールザプレジデントメン』は、マザーグースの『ハンプティ・ダンプティ』という詩から来ている。『割れちゃったハンプティダンプティは、王様の全部の馬と王様の全部の家来が来ても元には戻らないよ』という詩から来ている。「もう取り返しがつかないよ」という意味なのだろう。

カールの役はもともとアル・パチーノだったらしい。この2人の記者は、支持している政党が違った。ボブの支持政党は共和党である。

ものすごく裏取りにうるさい上司のベン・ブラッドレイ(=ジェイソン・ロバーズ)が、スピルバーグの『ペンタゴンペーパーズ』にでてくるトム・ハンクスなのである。
きょんちゃみ

きょんちゃみ