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アネットのmarikabraunのレビュー・感想・評価

アネット(2021年製作の映画)
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生きること、表現すること、誰かを愛することは、何て途方もなくどうしようもないのだろう。丸一日経っても整理されないぐちゃぐちゃな気持ちのままでいる。肉体を持つ自分の言葉を話し始めるまで私もまた人形であり、アネットだった。自らの願望や期待、世間体などを押し付け自己実現に利用しようとした親への葛藤を未だ抱え、あなたは何も愛せるものがないと心の中で何度も呟きながら、映画の彼女のようには別れを告げられずにいる。だけど私は、あなたは、誰にも所有されない、誰にも所有することなどできない、独立した一個の魂なのだと、声が震えながらも言いたい。抱えきれない不安の渦にのまれ、有害な男性性、暴力に息づく自分本位な弱さに最後まで向き合えなかった男は告発され、死も救済も与えられず、刑務所で時間を殺し自分と対峙することでしか罪を償うことを許されない。ドニラヴァンに自己を投影しながら、男の孤独と妄執を受け止め癒す存在として女性を扱ってきたカラックスの映画で、こんな描写が見られるとは正直驚いた。(そんなひとさじの軽蔑を差し引いても、九年待ち焦がれて公開初日に映画館に駆け込むくらいには彼の映画に魅了されているのだけど。)亡くなったゴルベワの影を深く落としながら、愛娘ナスティアに捧ぐと締め括られるそれは、相変わらず壮大で独りよがりな自己投影であり、そして自戒でもあった。自分が今向き合っている部分をまんまと刺激されたお陰で涙腺がぶち壊れてしまった。反芻しては号泣するの繰り返し、本当にどうしようもない。これだから映画はやめられない。
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